003: アルギュロス・アリシダ・アーデイン

003-7: incubus × exorcist(祓魔師)

おっと、危ないな。
(鼻先を掠めた、過去にも幾度か使用された覚えのある祓魔師の武器を背後に跳躍して避ければ、着地した先で石畳の上を滑った靴底が細かな砂を噛んでざりざり、と耳障りな音を鳴らす。人通りの絶えた夜の市街地で祓魔師と対峙した状況にして危機感は薄く、言葉のわりには余裕ぶった態度と、普段と変わらぬ穏やかそうな表情をいまだ保ち、そこへきて相手から目を外して己の長身に沿った細身のスーツについた埃を手で払い落とし始め。その途中、ここに至るまでのどこかで引っ掛けていたらしくジャケットの肩に程近い上腕部分に裂け目が出来ているのに気が付き、小さい綻びではあるが表層の繊維が破断して下のシャツも覗こうかという有様に愁いを含んで眉尻を下げながら細く嘆息し)
ああ、参ったな……ご覧よ。このスーツ、値が張ったというのに。
(消沈したように肩を落とし、二度三度かぶりを振ると、うなじの所で一本に纏めた後ろ髪が銀色の尾のように揺れる。光沢のある明るく華やかなグレージュカラーの生地で誂えた三つ揃えのフルオーダースーツは、相応に金額を費やした一品で、その背広に位置も破れ方も日常生活の中では中々見ないような綻びが出来ているのだから、やはりここで立ちはだかる祓魔師と邂逅したがゆえの傷と判断し、肩口の生地を指先で引っ張ってこれ見よがしに破損部分を相手の視界に入れ込もうとして)
まったくひどい話じゃないか。こちらは害意もなければ武器も持っていないのに……これだから祓魔師は野蛮だと言うのだ。

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