001: シュティア・ホルン

001-2: incubus × person(人間)

これ、ここでいい? よっと。
(了承を得て両腕に抱きかかえていた段ボールを空いていたスペースに下ろすと、気の抜けた声を上げながら腰に手を当て、荷物を運ぶ中で知らず知らず不自然に丸まった姿勢を取っていた背中をぐっと伸ばす。自分が淫魔であると知る相手にしてみればその人間じみた仕草がおかしかったか、笑う相手につられる形でへらりと頬を緩ませ)
あ、まだ運ぶものあったよね? それも今持ってきちゃうから。
(隠し続ける罪悪感に耐えきれずヒトではないと打ち明けた事実を受け入れるばかりでなく、以来何かと生活を手助けしてくれるようになった相手は何やら夜の店の経営に関わっているらしく、頼みこんで手伝わせてもらえるようになったのは最近のこと。具体的な業務内容までは関知していない上、雇用に必須の書類も用意できない身分とあって表立った仕事は難しいものの、荷運びくらいならただのヒトより多少は強い膂力を活かして手伝える。じゃあ、と一言残して通用口のほうに舞い戻り、往復数回、バックヤードに荷物を全て運び終えれば、疲れた素振りも見せずまるで飼い主に忠実な大型犬がそうするように次なる指示を求めて相手のもとへ)
終わったよー。まだ時間あるけど、他にすることある? 何でも言って。やっぱり俺、家でじっと待ってるよりは体を動かすほうが性に合ってるし……。それにさ、何かしてもらうばっかりでお返しできないのってむずむずするから、こうやって君を手伝えるのは嬉しいんだ。

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