004: イヴェール・フラム

004-2/14: incubus/succubus × ...

ちょこれーと……今日はばれんたいんでーで、ばれんたいんでーだとちょこを贈るのか? なるほど。
(2月14日、バレンタインデーだから──と淫魔にはピンとこない理由で手渡されたのは、ラッピングの施されたチョコレート。チョコ自体は長年の人間観察の中でたびたび目にすることがあり、食べ物であるのも、好む人間が少なからず存在していることも知っているが、それとバレンタインデーなるものの繋がりまでは認識していなかったために相手が説明してくれるのを興味深げに聞き。関心は初めて直接手にしたチョコレートにも向けられ、渡されたものをひっくり返したり視線の角度を変えてみたり、しばらく外観を眺めていたところを相手に促される形で、表情はいつも通り恬淡ながら、おっかなびっくりな手つきで包装を剥き始め)
ちょこれーとか。初めて食べる。ん……、んん、何だこれは……?
(中から現れた華やかなチョコレートの粒に、ほう、と感嘆めいた吐息をこぼし、ひとかけ摘まんで口に放り込んだまではよかった。しかし液体ならどんなに味がなかろうと流動性が高いため難なく飲み下せるものが、口内でじわりと溶け出したチョコレートは舌に重たく纏わりついてすんなり嚥下することが叶わず、それを自身にとって嫌な感覚と捉えて珍しくはっきり分かりやすく顔を歪め。このまま飲み込むのはどうにも困難と判断して、舌の上でまだ形を留める甘ったるい塊を、己と違ってそうと感じ取れる味覚を持つ相手に押しつけるべく、その頬を両手で挟み込むように固定してしまうと薄く開けた唇を寄せ)
これは私には無理だ。お前にやる。舌を出せ、早く。

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