006: メアルー・スル・オーランローズ

006-3: succubus × ...

こ、これを買えばお友達ができるの? 本当に? どういう仕組みなのかしら……。
(目の前のケースの中にさも高価そうな趣で鎮座する、色付きのガラス玉を連ねたブレスレットの、身に着けることで運気が上昇して云々、同様の物を購入した人々が如何に希望を遂げて云々──脇に立つ販売員が並べ立てる効能と評判に首を傾げつつも、例えば祓魔師が悪魔に対して術式を使うように何らかの魔術が施されているのかもしれない、と世間を知らない素地が災いして勝手にいいように脳内補完してしまう。小振りな両手をついてケースに張り付き、ただのガラス玉にしか見えないただのガラス玉に、じっと熱烈な眼差しを注ぎ)
よく分からないけど、でも凄いものなのね? お友達……、……はっ、違うわ! あたしが欲しいのはお友達じゃなくて餌よ、餌! 食料! ごめんなさいね、そういうわけだから、あたし行……、
(本来の目的を思い出し、まずは望んでもいない社会勉強を終わらせねば、と購入と我慢の狭間で緩く前者に傾いた内心の天秤を立て直す。ガラス玉を見るうちに胸元に流れてきた長髪を背中に払い、颯爽と踵を返そうとしたものの、一拍早く耳に届いた宣伝文句に結局足はケースの前から動かずに)
え……これは食べ物にも困らなくなる効果があるの……? そ、そう。このブレスレット、いくらって言っていたかしら。お父様とお母様が持たせてくれたお金が、たしか、ここのポケットに……。
(耳当たりのいい販売員の言葉に音を立てそうな勢いで天秤が購入の方向に傾き、ケースの向こう側のアクセサリーと、販売員とを交互に見る。人間の食物では空腹を満たせず、まともな生活拠点を確保するのに必要な人間社会の一般知識もないときて、これまで用途が分からなかった貨幣にようやく価値を見出し、一縷の希望に明るい表情で左肩から斜めがけしたポシェットの内ポケットをごそごそと漁り始め)

- ナノ -