004: イヴェール・フラム

004-2: incubus→succubus × exorcist(祓魔師)

っく……外れん。あの祓魔師め、次に会った時は殴ってくれる。
(人外の身体能力で引っ張っても捩っても叩いても、右腕に嵌められた鉄製の重たい手枷はびくともせず、手枷と頭上の拘束具を繋ぐ太い鎖を無為にじゃらじゃらと鳴らした後で力を使い果たしたように湿っぽく冷たい地べたに座り込む。祓魔師に捕縛され、その拠点の教会らしき建物の地下に放り込まれて数日。祓魔師と会敵する前から餓えていた肉体はいよいよ限界が近く、ひどい眩暈に額を押さえつつ手狭な室内をぐるりと眺め回し。いつの時代から利用されているとも知れない、牢と表現して差し支えない古びた石造りの、こんなつまらない小部屋で死ぬのはどうあっても御免だ、と薄い唇の端を噛み)
……女になれば、抜けるか……?
(元来痩身のためか、現状でも手枷には手が抜けないまでも少しだけ余裕があり、これが男性体よりも華奢な女体ならあるいは、と閃きに従って肉体に意識を集中させ。意識を乱す飢餓感に耐え、普段の何倍もの時間をかけて己の肉体を柔らかくしなやかさを帯びたものに変容させると、ぐっと勢いよく腕を引き。右手の側面に血の滲む擦過傷を複数こしらえながらも、それでようやく重たい拘束から解放され、気兼ねなく両腕を揃えて好きな方向に伸ばせる当たり前をしみじみ享受し──また新たな問題に直面する。いかにこの鉄格子の備えついた小部屋から脱出し、地上に上がり、建物を出るか。祓魔師ならそこかしこに術式を施していても不思議はなく、対するこちらはそれを突破するだけの余力もない。山積した問題を解決する策を求めて頭を捻っている最中、耳が覚えのある足音を捉え、一瞬で蘇った緊張感に身を強張らせて目を凝らし。この場と同様に石材で作り上げられた階段を降りてくるのは、間違えようもない、己を捕らえた祓魔師の姿で、相手が格子の向こうに見えるなりふらつく足でゆらりと立ち上がり)
貴様……丁度良い、次に貴様に会ったら殴ってやろうと思っていた!
(瞳の鮮やかな赤が、己をこのような場所に押し込んだ張本人を前にして、憤懣色濃く燃え上がる。鉄格子の側に一歩一歩歩み寄り、振り上げた女の細腕が格子の間を抜けて相手に届くのが早いか、辛うじてここまで持ちこたえた体力気力が限界を迎えて己の膝が折れるほうが早いだろうか)

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