003: アルギュロス・アリシダ・アーデイン

003-3: incubus × incubus/succubus(淫魔)

(通い慣れたバルコニーに小さな靴音を伴って降り立てば、続けざまに白いドレスグローブに包まれた指先でこつこつと窓ガラスをつついて夜の静寂を破りにかかり、こちらに顔を向けた室内の相手と目が合うと愛想のいい和やかな微笑を作って見せる。ぎ、と蝶番を軋ませながら開かれた部屋の中へ、歪に欠けた半月に照らされて浮き上がる己が影を踏むように立ち入り、ベッドに腰掛けた相手の足元に歩み寄って片膝をつくと、夜の薄闇に必要以上に色白く映えるかんばせを覗き込み)
やあ、ご機嫌いかがかな。……顔色は大分マシになったね、じきにまた表に出られるようになりそうだ。何よりじゃないか。
(夜毎この屋敷を訪れては相手に精気を分け与える行為を続けていた甲斐あって、生気を取り戻しつつある相手の頬を指の背で優しくくすぐり。家の使いによって突然齎されたこの役目、家同士の繋がりにも同族にも興味がわかず当初の説明を聞き流してしまったせいで、相手方の事情は今一つ分からぬままだが、一先ず終える目処がついてほっとため息を一つ。しかし、それが相手の体調を慮っての安堵というだけでないのが露骨過ぎたか、見咎めた様子の相手に、特別悪びれるでもなく微苦笑して肩を竦め)
うん? いや、君が自力で食事できるほど快復すれば私はお役御免だな、と思って。最初にそういうことで話はついていただろう。君の件が片付かないことには私もこの街を離れられないのでね、早く元気になっておくれ。

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