001: シュティア・ホルン

001-10: incubus × ...

(相手のもとに戻ってきた時、その両手に抱えていたのは土のついた新鮮な野菜の数々、それらの上に未開封のお菓子の袋がぽつんと一つ。形は不揃いながら丸々と育った野菜がこぼれ落ちてしまわないよう慎重な足運びで進み、見かねたらしい相手が不安定にぐらつく菓子袋を手に取ってくれたことで腕の中には自然の鮮やかな色彩が広がり)
これ? えっと、最近近所のおばあさんと仲良くなって……今日も話したんだけど、そしたら何だか分けてくれたんだ。断るのも悪いかなあってもらっちゃった。
(自身の気性はどうやら若者よりも人生経験が豊富な人間に好かれやすいようで、今日も近くに住む老婦人と他愛のない世間話をして、彼女の家庭菜園の草取りを手伝って、そんなことをしていたら帰り際に渡された野菜の山。と、おまけのお菓子。「若いんだからいっぱい食べなさい」という婦人の心遣いを無下にできようはずもなく、まさか馬鹿正直に淫魔なので、とはなおさら言えなかった。相手なら美味しく食べてくれるだろうかと持ち込んでみたが、果たして。窺うように首を傾け、問う間にも土で黒く汚れた指先が抱えた艶やかなトマトの表面を撫で)
でもほら、俺はこういうのあんまり食べないから……どうかな。あのおばあさんは野菜は栄養があるからしっかり摂ったほうがいいって言ってたよ。あと愛情込めて育てたって。俺も草むしりとか肥料あげるのとか手伝ってね、……え? もしかして、野菜、嫌い……?

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