006: メアルー・スル・オーランローズ

006-10: succubus × ...

きゃあっ!? 熱っ……あっつ! な、なんで跳ねるのよ、もう!?
(甲高い悲鳴がキッチンにこだまする。握り締めたフライ返しもろともぶんぶん大袈裟に振りたくる右手を、潤んだ目で素早く確認してみれば、そこは今さっき跳ねた油が引っかかったせいか仄かに赤くなっていた。この程度の怪我なら早晩治癒する淫魔の身とはいえ不快な痛みがあるにはあるので、むすっと頬を膨らませる。こんなふうに油が跳ねるなんて聞いていない。左腕に抱えていた空のボウルを流しへと放ると、拗ねた眼差しでコンロにかけたフライパンを睨みつけ、まさか自分が熱した鍋の中央めがけて溶き卵を勢いよく真上から垂らしたのがよくなかったのだとの考えは露ほどもなく、今まさに火が通っていく真っ最中の卵を見下ろしながら意趣返しのようにフライ返しで乱雑に突っつき。どんどん色が変わってふっくらとして来ているのは見て分かるのだが、積極的に人間の食べ物を摂るほうではないので外観から焼き加減の判断をつけることができない。引き上げるタイミングを計りかね、フライパンの前に仁王立ちになって待つ中、先刻から悲鳴といい卵焼き一つにばたばたと騒がしいのを心配してか、相手がキッチンへと顔を出したのを認めるなりビシッと居丈高にフライ返しを突きつけ)
これってもう焼けてるのかしら……。……なあに? このくらいあたし一人でも全っ然平気なんだから、あなたは座って待っててちょうだい。今に終わるわ!
(思い立って卵焼きなど作っているのは、己のためではなく相手に食べさせるため。可愛らしいエプロンで気分を上げ、髪も邪魔にならないよう纏めてもらい、そこまでしてもらっても料理本番では手を借りないで一人でやり切る、と勝手に心に決めている。相手を追い払うように手を振り、視線を再度卵焼きへ。正直あまり自信はないが恐らくいい加減に頃合いだろうと判断すれば、いそいそとお気に入りの皿の準備を始め)

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