011: 相馬 涼乃

011-9: person × incubus/succubus(淫魔)

君のその姿って本物なの?
(口に出した後で脈絡のない質問だったと己でも認識し、続けるべき言葉を探して目を泳がせる。無為に手の中のカップを揺らせば蓋をされたその内側で溶け残った氷がからからと音を立て、ファストフード店で購入したそれが生じた会話の空白を申し訳程度に埋めてくれて、その間をしばし思案に費やしていたがいよいよ手を止めて顔を上げるとレンズ越しに相手を真正面から捉え。目の前に端然と座る相手は、瞳の色が常人離れした真紅であるという以外はごくごく一般的な、自分を含めたそこらの人間と何も変わらない姿形をしているように見える。耳や爪や歯は特別尖っていたりはしないし、角も羽も生えていないし、どうやら服の下に尻尾を隠しているなんてこともないらしい。ただ普通の人間より肌が白く、睫毛も長くて、笑った顔は大変可愛らしく、一つ一つのパーツが整っているのが素人目にも明らかで、相手を構成する何もかもがあまりに綺麗で適切な配置にあるものだから、人を惹きつけて食べるためにそのように完成したのか、もしかしたら単に自らの視覚がそう認識するだけで他人の目を通すとまた違って見えているのか、テーブルの上にカップを置けば両手を伸ばして相手の頬に触れ、触覚を頼りにじかに確かめてみようか)
だから……ええと、淫魔はヒトを誘惑して食事をするって言うから。成功率を上げるためにその人間にとって好ましい容姿に見える……みたいな能力があっても、不思議じゃないのかなと思って。

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