007: グランキオ・ウルラート

007-9: exorcist × immediate boss(支部長)

おらよ、報告書。
(銀十字祓魔協会は南欧支部支部長執務室、と大層な名目のついたその部屋をアポイントもなく突然訪ねたにもかかわらず、誰も彼も慣れたもので引き止められることもなかった。執務に使用するには不必要に座り心地のよさそうな椅子へ腰掛けた眼前の相手と、一介の祓魔師に過ぎない自分とが、それでも古馴染みであるともはや周知されているのだろうか。あるいは相手が己について職員に何か言い含めてくれたのか。今はそんな些事はどうでもよくて、ばさり、と二人のあいだにあるデスクの上に紙の束を放り投げ。相手から直接命じられた退魔任務をこなしたその足で、道中に書き上げた報告書を届けに来たのだった。相手の手がぱらぱらと束ねられた紙面をめくるのを眺め、これで役目は終わったと気が抜けていたらしい、紙に触れていたはずの指先が知らず知らず茫洋としていた己の頬に接したことにはっとして顔を上げ)
うるせー、触んな。……笑うな!
(いつの間にか立ち上がっていた相手が触れたのは頬の怪我を覆うガーゼで、じくじくとまだ痛むそこに添えられた手から逃れるように大きく首を振り。それ以外にも手元の包帯や戦闘の痕跡が残る祭服を笑いながら指摘され、子供のように拗ねた目で唇を尖らせる。単独で任務に臨んだし、穏便に済む敵ではなかったのだから仕方がない。むしろこの程度の怪我で収めたうえ、支部長じきじきの任だからと早々に目的を達成して報告書まで仕上げ、医務局にも立ち寄らずまっすぐここに来た自分にはもっと対価があって然るべきではないか。協会の査問委員会に召喚されかねない日頃の言動や任務で出した損害をたびたび相手にフォローしてもらっている事実は知っているのだが、疲労感というのは頭を鈍らせて視野を狭めるもので、もしくは親しい相手への甘えと言えるかもしれない、本当ならこうして寄り道などせずさっさと家へと帰って風呂に入って寝たいのに、と自分本位の愚痴をこぼす代わりにデスクの脚を軽く蹴り、痛めていないほうの手を机上についてずいと身を乗り出し)
そっちが寄越した仕事だろうが。支部長サマのために体張ってこんな怪我までした俺様に、ご褒美の一つもないのォ?

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