003: アルギュロス・アリシダ・アーデイン

003-4: incubus × ...F(女性)

(そこは繁華街によくある、複数店舗が入った雑居ビルの一つ。外壁に取り付けられた電光看板や、出入り口付近に張り出されたチラシの数々が煩く店名を主張するのを横目に、迷いなく半地下への階段を下りて行き、突き当たりのドアにopenというサインプレートが掛かっているのを確かめてから、その通い慣れたオーセンティックバーの扉をくぐり。けばけばしい上階の店とは違う、隠れ家的な雰囲気に加え、酒へのこだわりや職人気質のバーテンダーに惹かれて通うようになった場所だが、幾度となく足を運ぶうちに飽きて来たのも事実で、そろそろ新規開拓に向かうべきかと頭の中に地図を広げて当たりをつけていた矢先の事。店内に入った瞬間、すっかり見慣れた店内のカウンター席にぽつんと座ってカクテルを煽る、まったく見知らぬ女性に視線を吸い寄せられ、もともと本能を優先するよう出来ている体が、思案より早く興味に任せてそっと相手との距離を詰めにかかり、彼女を驚かせないよう低く穏やかに挨拶し)
こんばんは。……ああ、突然すまないね。私はよくここに来るのだけど、見慣れない顔を見つけたものだから、つい声を掛けてしまった。
(ごく自然な流れで彼女の隣席に腰を下ろすと、少々気障ったらしくも飽くまで泰然自若とした男の仮面を被り、その下にある新たな観察対象への強過ぎる関心など悟られぬようゆったりと言葉を続け。今この時と、あわよくばこの後の長い夜をも楽しめるなら、それだけで自分が金銭を負担する価値はあろう――そう判断して相手の手元の残り僅かなカクテルグラスを指し示し、勧める酒の世間一般で言われる意図を彼女は果たして知っているだろうか、人当たりのいい柔らかな笑みを口元に乗せて)
迷惑でなければご一緒しても? そうだな……ポートワインか、シェリーでもご馳走するよ。

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