006: メアルー・スル・オーランローズ

006-8: succubus × incubus《fiance》(許婚)

スッ、好きな人とかいないの、あなた?
(自然な話の転換を装って聞くつもりだったのが、これまでじりじりとタイミングを見計らっていたせいで咄嗟に喉が開かず、尋ねる一番最初の音を甲高く外してしまい。恥じて赤らんだ顔を抱えた膝に埋めるようにして座り込む場所は、花が咲き揃った自邸の中庭を眺望できるウッドデッキに備えられたベンチの上で、花々の香気を運ぶぬるい風が吹くと今日はツーサイドアップにした髪がふわりと揺れる。普段は呼べばすぐ飛んでこられる位置で待機している使用人も現状は自分たちを二人きりにしようとする配慮のためか視界に入る範囲には見当たらず、これまで人前では気兼ねして聞けなかった内容をじかにぶつけられるまたとない機会に、頭を垂れて表情を隠したまま言葉を重ね)
……いるならいるでいいのよ。許婚なんて言ったって、親が決めたことなんだし……あたしに遠慮する必要ないわ。

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