010: 風間 虎之介

010-7: person × incubus/succubus(淫魔)

は〜、疲れたぁ……。
(日付も跨ごうかという頃、何とか辿り着いた自宅の鍵を開け、真っ暗な玄関に滑り込む。背後で重たげな音と共にドアが閉まって外の世界と切り離されたのを合図に、声を上げるのと殆ど変わらない大きなボリュームで溜め息を吐き出し、後ろ手に戸締まりを済ませつつ屈む事なく器用に足元の動きだけで革靴を脱ぎ捨て、ついでに鞄とジャケットも玄関先に置き去りにして、暗いままの廊下をまっすぐ進んで向かうはリビング。帰宅した安心感からすっかり脱力しきってしまい、歩く足は引きずるよう、両腕は体の横に垂れ、電気のスイッチを入れる気配は微塵もない。そのせいでリビングに入った瞬間、暗闇のなかで幽霊のように浮かび上がる人の影に飛び上がる羽目になり)
だぁぁ!? って……あぁ、お前か! 泥棒かと思って今一瞬ビックリした。また来たんだなー。
(本来帰りを待つ人など誰もいない、一人暮らしの雑然とした部屋にいたのは、顔馴染みとなった淫魔。ドアも窓も確かに鍵を締めていった筈なのに、一体どのような原理でか、知らぬ間に室内に入り込まれている事態は何も今回が初めてではなく、そこに生来の楽観的な気性も相俟ってのんきに応対しながら首元から外したネクタイを床に落とせば、着替えすら億劫そうにテレビ正面のソファに疲弊を隠せない体を沈め)
でも……ごめーん、今夜の俺はちょっと疲れモードでさ、お前の相手出来るか怪しいな〜……。

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