その足に服従の誓いを | ナノ







その足に服従の誓いを








臨也が自身の足元で、戯れた仕草でゆびさきを伸ばしてくるのを、四木は咎めようとはしなかった。
不意に触れる冷たい鉄の温度は青年愛用のナイフではなく、いつか贈った指輪だと、男は知っている。
けれども。唐突に、左の足首をめぐるように。


「………おい。なにしてる」


澄んだ、硬質な金属音がしても四木は焦ることなく、ゆらり、臨也を視界に映すだけ。
そして目的を果たしたのだろう青年は、身を起こし艶冶な表情で四木に撓垂れ掛かり、その赫い双瞳で男に笑みを向けた。

「なんだと、思います……?」

妖しく淫靡な彩を揺らめかせる瞳。
細い細いゆびさきが、慈しみ、愛しむ様に、男の肌を。そして。


「だって、俺はとっくの昔に、貴方に縛られているのに。
 ―――――だから貴方も、俺に囚われるべきでしょう?」


血の彩を透かす深紅の唇が、そう、謳う。
その聲の中、蒼天はとうに禍々しい闇に殺されて、無明の闇だけが煮詰められ。
だけれどもそれはまるで子守唄のように、どこまでも甘美にして、耽美。

「囚われるべき、か……」

四木の乾いたゆびが、臨也の頤を捕まえる。
目線だけを己の足首に、この変わらないコドモが戯んでいたその場所に、奔らせる。
鈍く澄んだ光が、そこに。


「…随分、可愛げのねぇモノを寄越すじゃねぇか」


武骨な男には不似合いなほどに華奢な、それ。
囚われろと、その言ノ葉の通りに左足の先にある、枷。
臨也の相貌を仰向かせ、深く覗きこむように四木は瞳を眇めた。
応えて、赫が、哂う。

「鍵は、此処に」

囚われたまま、細く瀟洒なそれを掲げるゆび。
視線を流して鍵を見留めた四木は、しかしくだらないと言わんばかりにまた、赫に。

「どうしたんです?外さないんですか?」

ねぇ、四木さん―――。
楽しそうに愉しそうに、わらっている、コドモ。
呑みこまんと、闇の獣が牙を覗かせた。
硬く大きな手が、黒に浮かぶ白に重なり包み込み、銀を見えなくさせる。


「―――手前に、預けておく」


好きにしろ。
この自分をその手で繋いだというのであれば、最後まで。
…最期まで、■してみせろ。


大きくなる赫。
けれどすぐに伏せられて、次の瞬間にはどこか、泣きそうな。

「狡いなぁ」

そして臨也は、そう言った。
四木の足元に跪きながら。臨也自身の手で掛けた環に、そのくちびるを寄せながら。

もう一度、本当に狡い、と言って。










左の足の頸の枷。
それは隷属の証であると、貴方は知っているくせに。
(私は永遠に、あなたの支配下から逃れられない逃れたくない)


粟楠×臨也企画
劣情と誘惑 」様提出