*転生ネタ *伊作しか出てこない 黒い珈琲の中に渦巻くミルクの行方をぼんやりと眺めていた。 映画まであと40分。待ち合わせの時刻に早く着きすぎた僕は飲み物片手に友達を待つ。映画館近場の喫茶店は人で結構ざわついている。 外はぴゅうぴゅうと風が吹いていた故に温かいカップを持つだけで少し幸せな気分になれた。 今、僕は大学生だ。友達と休日に遊びにいくだとかコンビニでアルバイトをするだとかを日常的にしているけど昔々僕は室町時代に生きた忍者だった。忍術学園という場所で忍術の勉強をしていた、忍者であった。記憶は断片的な物ばかりで上手く蘇らせる事は出来ない。しかし室町の頃、僕には大切な人がいた。それは忘れていない。 僕と同室で、白い肌が綺麗で、とても優しい人だった。 僕はその人の名前が思い出せなかった。否、思い出せなくなった。日を重ねていく度に過去の僕に関する記憶は現在の僕の記憶から消去されていくのである。 もう名前も顔も体の感触も鮮明に思い出す事は無理だった。 ねえ、もう寒い季節だけど君は元気かな。風邪引いてないかな。あと怪我とか。心配だな。 僕は今日まで笑う事が出来ているけど、君もちゃんと笑えているかな。 昨日覚えていた事もふと考えると分からなくなる。このまま季節が流行り移ろいでいけば君が同室だったのも優しかったのも、僕は忘れてしまうだろう。君の存在さえいつか記憶から零れ落ちてしまうのだろうか。 君が完全にいなくなった世界で、それでも僕は笑っていて。 なにそれ。 ふと「どうしたんだ?伊作」と声が耳に入る。テーブルの横で不安げに僕を窺ってくる人物がいた。耽っている間に大学の友達がやって来ていたのだ。 「何が」と答える前に自分が静かに涙を零していたのに気付いた。 君との日々をそっと奪っていきながら、地球は今日も廻り続ける。 ねえ、君もひょっとしたら何処かで僕の事を思って泣いてくれているのかな。 何でもないよと言い涙が混じった珈琲を僕は一気に飲み干した。 ーーーーーーーーーーーーーーー Thank You BGM 珈琲ミルク/高橋瞳×BEAT CRUSADERS 現代にひとりぼっちで生き返った伊作。 留伊か伊留か定まらなくて六はと表記しました。…の割に留さん出てきませんね。 実は留三郎も転生して伊作とは全く違う場所で生活してるという裏設定があったり。 20111009 |