「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・何だ?」

そう聞いたクォークは眉間に皺を寄せて、じっと見つめたまま動かないユーリスを見た。ユーリスは肘杖をついたままじっとクォークを見ている。
すると、ユーリスは小さく笑った。顔で何かようか、とクォークは問うがユーリスは空いていた手でひらひらと動かし、何でもないよ、と言っているように動かした。そして、再びユーリスはクォークを見つめる。

クォークは気になって気になって仕方がなかった。自分の目の前に座るユーリスはじっと自分を見ていて、クォークはコーヒーを飲みながらチラチラとユーリスを見ていた。
・・・本当に、何なんだろう。

すると、ユーリスは肘杖をやめて、机に身を乗り出した。そして、クォークに囁く。

「そんなに見てたら、僕だって見つめ返しちゃうよ?」

クォークは思わず飲もうとしていたコーヒーを吹いた。
遠くからアリエルから「クォーク大丈夫!?」という悲鳴が聞こえた。
コップを置いて咳込んだクォークは口を手の甲で拭い、ユーリスを見る。
ユーリスはそれが面白かったのかニコニコと笑っていた。

「何そんなに動揺しているの?」
「あ、当たり前だろうが!!何いきなり・・・」
「だって暇だったんだよ。構ってくれる?」
「エルザかジャッカルに構ってもらえ」

そう言ったクォークはガタリと椅子から立ち上がり、2階へ向かうため、階段を上って行こうとした。しかし、ユーリスに呼び止められた。
クォークは後ろへ振り向き、ユーリスを見た。ユーリスは何かを言おうとして、口をパクパクと動かしていたが、何も言えなかった。
首を傾げたクォークは何だ?と聞こうとした時、ユーリスは1度口を閉じ、苦笑しながら口を開けた。

「おやすみ、クォーク」

そして、ユーリスはここから見えない場所へ行ってしまい、姿を消した。




・・・体が怠い。

クォークは息苦しさを感じていたが、まっすぐ視線を向けていた先にユーリスが仰向けになって倒れているので、釘づけになって動けなくなっていた。
周りを見れば、同じようにエルザたちが倒れている。立っているのは、自分だけ。
手は赤い鎖のようなものが光り、巻き付いているかのように腕にあった。

ここから見えるエルザたちはかすかに息を吸っているかどうかはわからなかった。しかし、今目の前で倒れているユーリスはかすかにだが、息をしていた。体は傷だらけで、目につけていた眼帯はない。その下に隠されていた目は虚空を見つめているかのように、虚ろだった。

「・・・泣いているの?」

そうユーリスは呟いた。視線はクォークを見つめているわけでもなく、ただ上を見ている。
クォークははっとして、自分の目に触れた。涙がいつの間にか出ていた。
ユーリスはふ、と笑うと目を細めた。

「・・・君が選択した道は間違ってはいないよ。でもね、それが正しいことでもない」
「・・・ユーリス」
「はぁっ・・・だから、さ・・・泣かない、でよっ・・・こっちが、泣きたくなるよ・・・」

すると、ユーリスの口からひゅーひゅーと風のような音が聞こえてきた。
クォークは歯ぎしりをすると、持っていた剣を投げ、ユーリスの体を抱き起こした。

「クォー・・・」
「喋るな!!もういい!喋らなくていい・・・!!」

そうクォークは叫ぶと、その衝撃でクォークの涙がユーリスの頬に落ちる。
すると、何がおかしかったのか、ユーリスは再び小さく笑った。

「・・・これで、何回目だろう」
「何・・・?」
「いや・・・何でも、ないよ。ねぇ?クォーク・・・」

ユーリスはかすんだ目をクォークに向ける。その顔は真っ青で辛そうな顔だった。

「また、会える?会えて、また・・・傭兵団にいて、一緒にいられるかな・・・?」
「・・・ああ。また、会えるさ」
「・・・そっか。それなら・・・いいや・・・ありがとう、クォーク」

そして「おやすみ」と最後に言ったユーリスはゆっくりと目を閉じ、クォークにもたれるようにして動かなくなった。
クォークはしばらくユーリスの顔を見つめていたが、やがて大量の涙が出てきて、愛おしそうにユーリスを抱きしめた。

「すまない、すまなかった・・・!!」

そして、クォークは声にならない声で叫び、泣いた。




ーーー今日も賑わうアリエルの酒場。
目の前で騒いでいるセイレンとジャッカル、賑わう酒場でも平然とした顔で本を読むマナミア、楽しそうに会話をしているエルザとアリエル。
・・・今日も、平和な1日だ。

そんなクォークはアリエルにコーヒーを入れてもらい、それを飲んでいた。
コーヒーはやっぱりブラックに限る。そう思いながら飲んでいると、ふと目の前にユーリスが座ったのに気付いた。
そして、肘杖をついて、まっすぐにクォークを見た。あまりにも見つめられているので、クォークは眉間に皺を寄せた。

「・・・何だ?」

すると、ユーリスは空いていた手でヒラヒラと動かす。
ため息をついたクォークはコーヒーを飲みながら、チラチラとユーリスを見る。
そして、ユーリスは肘杖をつくのをやめ、机に身を乗り出して顔をクォークの横に近づけた。

「そんなに見てたら、僕だって見つめ返しちゃうよ?」

・・・クォークはコーヒーを吹き込んだ。
そして、アリエルの悲鳴が聞こえた。

クォークはコップを机に置き、手の甲で口を拭う。ユーリスはそれが面白かったのかクスクスと笑っている。

「何そんなに動揺しているの?」
「あ、当たり前だろうが!!何いきなり・・・・・・え?」

ユーリスの顔を見てみると、ユーリスの目から涙が零れ落ちていた。
それに驚いたクォークは怒鳴ろうとしたがそれを見てしまったので、思わず絶句してしまった。
何で泣いているのだろう?

すると、自分が泣いているのに気付いたユーリスは苦笑し、手で涙を拭う。

「あは、は、ごめん」
「・・・ユーリス?」
「別に、怒られて泣いているわけでもないし、悲しいから泣いているわけでもないよ?ただ・・・懐かしいなって」

そう聞いたクォークは何も言えなかった。
何が、懐かしいのだろう・・・。

ユーリスは涙を拭うとはぁ、と息を吐いて苦笑した。
そんな時、クォークの心がドクンと鳴った。
前にも見たことがある光景・・・。でも、こんな光景は今回の一度きりしかないはずだ。
きっと、勘違いだろう。そう言い聞かせたクォークだが、ユーリスの泣き顔が頭から離れてくれなかった。

そして、ユーリスは椅子に座りなおすと、近くにいたアリエルにコーヒーを頼んだ。承諾したアリエルはそのまま厨房の方へ走って行く。

「・・・いつまでもこんな生活が続ければいいのにね」

アリエルの後ろ姿を見送っていたユーリスはクォークの顔を見て微笑んだ。そして、肘杖をつく。

「・・・ユーリス、どうかしたのか?今日はやけに変だぞ?」
「変?ひどいな、クォーク。僕はいつもと同じように普通だよ」
「でも、なら何でさっき泣いて・・・」
「ねぇ、クォーク」

クォークの言葉を遮ったユーリス。
そして、呟いた。

「僕、クォークの顔を見ているだけで幸せな気持ちになるんだ。いつもの顔も、笑った顔も、今みたいに怒った顔も、驚いた顔も、全部・・・」
「ユーリス・・・?」
「だから今、クォークの顔を見つめていてもいい?」

そう言ったユーリスはニコリを笑った。しかし、弱弱しいその笑顔を見ていたクォークは目を細め、じっと見ていた。
しばらく黙っていたが、やがて長い溜息をついた。

「・・・わかったよ、でもあまり見るなよ?逆にこっちが恥ずかしいんだからな」
「ふふ、ありがとう」
「・・・変な奴だよお前、本当」

呆れたクォークだったが、顔は笑っていた。
そして、再びコーヒーの液体に口をつけて飲む。

すると、ユーリスはクォークに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「・・・今度こそ、止めてあげるよ。だから、今はこうして・・・」

幸せな時間を作っていくんだ。もうあんなことを繰り返したくない。
そう言ったユーリスは今度は自嘲気味に笑った。


『見ているだけで幸せだった』








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -