空調の効いた室内は涼しく、私はただぼんやりと目の前の景色を見つめていた。
 イタリアエリアにあるこのカフェテリアの二階はガラス張りになっていて、外の風景が良く見える。人通りが多く賑やかなメインストリートに面しているここは私のお気に入りの場所だ。


 ふと通りに目を向けると、ばちりと通行人の男の子と目が会った。驚いて肩を揺らしてしまったがそれは向こうも同じようで、彼も驚いたように目を見開いている。だが、ここで目を逸らしてしまっては気分を悪くしてしまうだろう。そう思って微笑みかけると、彼は頬を赤く染めて微笑み返してくれた。

 ふと気がついたのだが、彼はイタリア代表のジャージを着ていてどこかで見たことのある顔だ。
 確かサッカー雑誌のFFI特集だった気がする。…名前は、確か、


「あ、フィディオくんだ」


 思い出した。彼はイタリア代表オルフェウスのキャプテンのフィディオ・アルデナだ。
 
 思い出せたことが嬉しくて思わず声に出してしまったが、ガラス越しだから彼には聞こえていないはずだろう。


 だが、そのときフィディオくんは慌てて隣にいるチームメイトの手を引いた。不思議に思って首を傾げると、また目が合う。今度は偶然ではない。フィディオくんは何かを私に言おうとしているようだが、ガラス越しのため聞こえない。
 眉間に眉を寄せると、フィディオくんの隣にいたチームメイトらしい男の子が彼の背を押した。フィディオくんは驚いたようにそのチームメイトを振り返って、そして微笑んで、走り出した。一瞬の間にフィディオくんは私の視界から消えてしまった。


 このカフェテリアに何か用があるのだろうかと思っていると、彼のチームメイトが私を見ていることに気がついた。彼も雑誌で見たことがある。確か名前は、ジャンルカくん、だったような。
 彼は私に手を振って、私の後ろを指差していた。後ろを見ろ、ということだろうか。昼と言うこともあってカフェテリアにはたくさんの人で溢れている。不思議に思いながらも後ろを振り向こうとしたそのとき、急に後ろから誰かに肩を掴まれた。


「!?」
「見つけた!」


 驚いて体を強張らせると、上から聞こえたのは男の子の声。おそるおそる顔を上げると、そこには、さっきまでガラス越しに見ていたフィディオくんだった。

 そんなに急いで走ったのか。彼は少し息切れをしていたけれど、それはすぐに収まったようだ。「前の席、いいかな?」と尋ねられたので「どうぞ」と答える。フィディオくんはさっきのようにふわりと微笑んだ。


「俺はフィディオ・アルデナ」
「知ってるよ。イタリア代表のキャプテンでしょう?」
「ああ!君の名前は?」
「私は名前」


 するとフィディオくんはナマエ、と私の名前を復唱して、意を決したように私の手を握った。私は今の状況がいまいちよくわからない。目の前にいる彼は真剣な表情で、一体何なのだろうかと首を傾げる。


「一目惚れだよ」
「?」


 彼の言葉の意味がよくわからない。
 一目惚れ、とは誰に?訝しげに彼を見つめるが、そんな私を余所にフィディオくんはさらに続ける。


「俺、ナマエのことが好きになったみたいだ」
「…え?」
「だから、覚悟しておいて」


 そして、彼はこれから悪戯を始める子供のように微笑んだ。


0725/ラン・イントゥー
匿名さま
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