「ナマエ、俺のシュート見ててくれた?」
「ナマエ!俺のディフェンスすごかっただろ!?」
「マルコ、俺が先にナマエに話しかけたんだからいきなり割り込んでくるな!」
「フィディオこそさっき意図的にナマエからタオル貰っただろう!」
「ちょ、ちょっと!二人同時に話しかけないで」

 試合が終わった直後にフィディオとマルコが私に駆け寄って来るのはいつものこと。彼らがそのまま私を抱きしめるのもいつものこと。そして二人で口論を始めるのもいつものこと。いやというほど繰り返されて、もう慣れてしまった。

 私はというと、いきなり二人に話しかけられても聞き取れないので困る。
 そしてもう一度言ってくれと頼めば、彼らはまた同時に話し出す。


 そんな流れをいつも紳士的に止めてくれるのがジャンルカだ。
 
「お前らストップ、ナマエが困っているだろう」

 そう言ってフィディオとマルコに私を解放させて、私の背中を撫でてくれる。彼は将来良いお父さんになるだろう。



 だが、今日に限ってジャンルカは観客たちへのファンサービスデーらしい。彼は向こうで爽やかに女の子たちに手を振っている。

 一人でこの二人くらい乗り越えろ、ということだろうか。フィディオとマルコに抱きしめられたまま、じとりとジャンルカの背中を睨むけれど、彼はその視線に気付く素振りさえ見せやしない。


「ナマエ」


 すると、フィディオとマルコが不思議そうに私の名前を呼んだ。


 「何?」と振り向いて、驚愕した。


 私が油断をしていたのが悪かったのだけれど。頬にやわらかい感触と、ちゅ、と控え目なリップ音。驚いて目を見開き、頬にキスをされたのだと理解した。その犯人はマルコで、彼は嬉しそうに笑う。


「ぼーっとしてるのが悪いんだからな!」
「ずるいぞ!じゃあ俺も!」
「ちょ、こら!フィディオ!」


 するとフィディオもまたマルコがキスをした反対側の私の頬にキスをした。だがそれは一回だけでなく、今度は額にもキスをされる。ちゅ、と繰り返されるリップ音に私は顔が熱くなるのを感じだ。まるでキスの雨だ。

 抵抗を試みるものの、手をがっしりと掴まれて身動きが取れない。それでもどうにかして抵抗しなければ、唇まで奪われてしまう。


「マルコ、フィディオ!はなして!」
「嫌だ!」
「じゃあ俺も嫌だ!」


 まるで幼い子どもがお気に入りのおもちゃを相手に取られないように泣きわめいているようだ。
 
 もしかすると、王子様はジャンルカなのかもしれない。いやきっとそうなのだ。ああもう、ジャンルカ、早く助けてよ!


1105/息さえできない
紗波さま
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