フィディオはいつも「ナマエのことが好きだよ」と言って微笑んでくれる。そんな彼に対して私はいつも曖昧な笑みを向ける。

 「ありがとう」そう言うと、自分に曖昧な笑みを向ける私にフィディオはとても幸せそうにふわりと微笑む。フィディオの笑顔を見ると心が温かくなって、だけど少し虚しくなって。ああ、もうよくわからない。



「好きって、どういうこと?」



 そんなことをぐるぐると考えているといつの間にか、そう口に出してしまっていた。
 目の前のフィディオは突然の不可解な問いに、目をきょとんとさせて私を見つめる。


「言葉の通り、好きだってことだよ」
「よくわからない」
「幸せ、温かい、嬉しい、そんな感情のことじゃないかな」
「確かにそれもあるんだけどね」


 フィディオと一緒にいると幸せだから、確かに私はフィディオのことが好きなのだろう。

 …でも、それだけじゃない。フィディオと一緒にいると、少しだけ胸が苦しくなるときがある。少しだけ虚しくなることがある。


どうしてだろう。


…あ、思い出した。悲しさを感じるのはいつも、私とフィディオとフィディオのファンだという女の子たちがいるときだ。



「フィディオが私の知らない子と話してると、少しだけ悲しくなるんだ」


 女の子は皆良い子たちばかりで、フィディオを応援してくれて、それにすっごく可愛いのにね。フィディオのことも好きなはずなのに、どうしてだろう。


 そう言い終えてフィディオに顔を向けようとしたとき、突然フィディオに抱きしめられた。力が強くて苦しい。驚いてフィディオの胸を力いっぱい押すけれど、彼の体はびくともしない。


「フィディオ、離して」
「嫌だ」


 フィディオがいつもより少し低い声で、そう言った。


 怒っているのだろうかと、不安になってぎゅっと目を瞑る。するとそのとき、額に優しくフィディオの唇が押しあてられた。


「…?」


 不思議に思って顔を上げると、フィディオは困ったような顔をして、頬が赤くなっていた。怒っていたんじゃないのだろうか。ますます意味がわからない。


 すると、フィディオはそんな私の額にもう一度キスをして、ふわりと微笑んで言った。


「ナマエ、それは嫉妬っていうんだ」



0921/不確かなもので確かなもの
紫亜さま
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