「いい加減ナマエから手を離してくれないか」
「お前こそ手を離したらどうだ?ナマエが嫌がっているだろう」
「ははっ!冗談は程々にしておきなよ」
「お前はナマエのことがわかっていないようだな。ナマエ、イギリスエリアのカフェで一息つかないか?」
「エドガー、まさか君、ナマエにあんな物食べさせる気じゃないだろうね」
「あんな物とは失敬な。我が母国のアフタヌーンティーほど優雅なものはない」
「優雅なものより美味しいものがいいに決まってる。ナマエ、イタリアエリアに行ってジェラードでも食べようよ。それともパンナコッタ?」


「………いや、私はただ手を離してほしいです」







 買い出しに行こうと宿舎を出たのが悪かったのだろうか。いや、でもまさか日本エリアに彼らが現れるなんて予想出来るわけないだろう。
 でもこういうことになってしまうのなら、豪炎寺くんの「買い出しなら木野に頼め」というアドバイスを素直に聞いておけばよかった。「大丈夫だよ」と笑った数時間前の自分が憎い。


 私は未だ解放されない両手をぼんやりと見つめ、溜息を吐いた。


 ナイツオブクイーンのキャプテンのエドガーと、オルフェウスの副キャプテンのフィディオ。
 どちらも優しくていい人なのだが、だからといってこうやってされるのは好きではない。


 日本に好きな人がいるからって言って諦めてもらったらいいんじゃないかしら、と秋ちゃんはアドバイスをくれたのだが、それは顔を真っ青にした選手たちに止められた。彼ら曰く「そんなことを言ったら俺たちが殺される」とのことだ。


「フィッシュアンドチップスなんて味のないものよりピッツァのほうがいいに決まってる!」
「じゃあローストビーフでどうだ!」


 間に挟まれてよくわからない言い争いをされるのは誰だっていい気持ちではないだろう。未だがっしりと二人に掴まれた両手を見つめて、もう一度溜息を吐く。

 するとやっとそれに気付いてくれたのか、エドガーが「どうかしたのか?」と心配そうに尋ねた。遅い。気付くの遅いよ。


「私、買い出しに行かなきゃいけないんだけど」


 ぽつりとそう呟く。実際そうだし、こう言えばサッカーの選手である彼らはきっと気を遣って手を離してくれるだろうと思った、のだけれど。


 すると、今度はフィディオが嬉しそうな声で言った。


「俺も手伝うよ!」
「は?」
「じゃあ私もだ!」
「え?」


 そして緩められていた手の力を再び強くされる。その意図がよくわからずに眉間に皺を寄せて二人に尋ねようと口を開いたが、時既に遅かった。


「!?」
「「レディ、エスコートをさせて頂きたいのですが?」」


 フィディオは私の左手の甲、エドガーは私の右手の甲にキスをしたのだ。驚いて手を払いのけようとするが、がっしりと掴まれていて払いのけられない。


 ひくりと、頬が嫌悪で釣り上るのを感じる。


 助けて秋ちゃん。そんな悲鳴が心の中に響いた。


0720/紳士と無耐性少女
凛花さま
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