「フィディオ?」
「ナマエ」
サッカーの練習の休憩中にどこかへ行ってしまったフィディオを、練習場であるフィールドの近くにある木々の木陰で見つけた。声を掛けると彼は嬉しそうにぱっと笑顔を輝かせる。
「何してるの?」
「シエスタだよ」
確かにここは静かで、木々の間からちょうど良いくらいに光が降り注いでいる。そよそよと穏やかな風が葉を揺らす音が聞こえ、自然と落ち着ける場所だ。それに、監督やコーチのいるベンチからは木の葉がちょうど被って見えない。
太い木の幹に背中を預けて瞳を閉じたフィディオを傍に立って見下ろすと、フィディオはそのまま眠ってしまいそうに見えた。
今は休憩中なのだから、もう少しすれば戻らなければならないだろう。そう思ってフィディオを立ち上がらせようと声を掛けて手を差し出すと、フィディオはふわりと微笑んで、そしてそのまま私の手をぐいっと引いた。
「わっ!?」
私は、突然のことに間抜けな声を出してぽすりとフィディオの隣に腰をつく。立ち上がらせるつもりで手を差し出したのに、逆に手を引かれるとは思ってもいなかった。
フィディオに怒ろうと思って彼を少し睨んだが、そんな私のことなんて気にしていないように、フィディオは嬉しそうに微笑んでいた。
「ナマエもシエスタしようよ」
「は…?」
「気持ちいいよ」
そんなに幸せそうな笑顔で言われたら、断ることなんて出来なくて。
小さく溜息を吐いて、フィディオの肩にもたれかかって、彼の肩に首を置いてみる。それが肯定の合図だとわかったのか、フィディオはまた笑みをこぼした。
「でも、少ししたら練習に戻るからね」
「わかってるよ」
「でも、今はまだ二人でいようよ」と、そう言って幸せそうに微笑んだフィディオを見て、やっぱりこのままずっとシエスタをしてもいいかな、なんて思ったのは彼には内緒にしておこう。
0905/白昼夢のまどろみ
いーさま