「日本語を教えてくれないか?」
「急にどうしたの」


 きらきらと好奇心に満ちた瞳で、私にそう尋ねてきたのはフィディオだ。突然のことに驚きつつ理由を聞いてみると、彼はにっこりと笑って、手に持っていた本を私に見せた。


「…日本のサッカー雑誌?」


 彼が持っていたのは、日本語で書かれた日本のサッカー雑誌だった。表紙には世界の強豪クラブで活躍している名だたる日本人選手のインタビューや特集の見出しが並び、その隣には「イナズマジャパン、FFIへ!」という、中学生サッカーのこの大会の特集らしい見出しがある。

 誰に貰ったのかと尋ねると、フィディオは「マモルに貰ったんだ」と嬉しそうに言った。

 この雑誌は確か緑川くんが「本屋に売ってたから皆の分も取り寄せてきた!」と渡してくれたものだったっけ。そのため私も持っているのだが、忙しくてまだ読めていなかった。


「日本語の勉強がしたいって言ったら、これをくれたんだ」
「そっかぁ」


 円堂くんらしいというか、何というか。日本語の勉強をするなら、本屋で日本語の文法書などの本を買って、それで勉強すべきだろう。フィディオの好きなサッカーから単語を覚えていくというのもいいアイデアだが、彼は日本語の初心者だ。やはり、日本エリアにある本屋に行って、初心者にもわかりやすい日本語の参考書を探そう。


 だがその前に気になることがある。それは、どうしてフィディオが日本語を勉強したいのかということだ。日本語話者の人口は世界で九番目に多いとは言え、日本でしか通じないような言語をわざわざどうして学びたいんだろう。

 気になってそう尋ねると、フィディオは少し頬を赤く染めて「ナマエともっと話がしたいから」と言った。


「え、私?」


 そこは円堂くんたちじゃないのかと不思議に思って首を傾げたが、彼の瞳は至って真剣そうだ。


「…どういうこと?」


 気になったので尋ねてみると、フィディオは気恥ずかしそうに笑って、口を開いた。


「ナマエに伝えたいことがあるんだ」
「私に?」
「voglio che tu mi stia sempre accanto」
「…?」


 彼は一体何と言ったのだろう。イタリア語ということはわかるのだが、上手く聞き取れず意味もよくわからなかった。

 首を傾げてフィディオを見つめると、フィディオは悲しそうに笑って「ほら、やっぱりイタリア語じゃ伝わらない」と肩をすくめた。何だかイタリア語がわからない自分が不甲斐なくなってしまって「ごめん」と謝る。するとフィディオは慌てたように私の顔を覗き込んで「ナマエが悪いんじゃないんだ」と微笑んだ。


「それに、俺は日本語で伝えたいから」


 だから日本語を教えてくれ、と続けてフィディオは微笑んだ。

 
 そこまで言われては断ることは出来ないし、私自身、フィディオが頼ってくれたことが嬉しかったので快く頷く。


「日本語は難しいって言われてるけど、諦めないでね」と念を押すように言うと、フィディオは嬉しそうな笑みを浮かべて「もちろん!」と大きく頷いた。




 たどたどしい日本語で彼から告白されるのは、もう少し先のお話。


0720/ずっと傍にいてほしい
七星さま
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