朝からついてない。

 寝坊してスクールバスには乗り遅れるし、学校に着いてからは校舎まで近道をしようと駐車場を横切ったときに上級生の車とぶつかりそうになって、授業では苦手なイタリア語の文章を皆の前で読まされて、昼のチャイムが鳴って中庭でランチを食べようと友達と共に外へ出れば急に雨が降りだしてびしょびしょになって、午後の音楽の授業では弾いていたチェロの弦が切れて合奏を中断させてしまったし、ああ、もう本当についてない。


「今日はついてないなぁ」


 はぁ、と溜め息を吐く余裕ができたときにはもう放課後になっていた。いつも登下校を共にしている友人がクラブで一緒に帰れなくなったため、一人でとぼとぼと見慣れた道を歩いてバス停まで向かう。早く帰って早く寝れば、きっと明日は良い一日になるだろう。

 そう思いながらぼんやりと歩いていたときだ。突然歩道の真ん中にサッカーボールが転がってきた。

 一体誰のものだろう。首を傾げてそのサッカーボールを手に取って辺りをきょろきょろと見回すと、向こうから同じクラスのマークが走ってくるのが見えた。
 彼は私に気付いたようで「名前」と驚いたように名前を呼んで、私の手の中にあるサッカーボールに視線を向けてほっとしたような表情を浮かべた。

 どうやらこのサッカーボールは、マークのもののようだ。確認のために「これ、マークの?」と尋ねると、彼は「ああ」と頷いた。サッカーボールを手渡すと、マークは嬉しそうに「サンクス」と笑う。


「マークはクラブ活動中?」
「いや、今日は休みなんだ」


 マークはサッカークラブに所属していて毎日のように練習をしているそうだが、今日は休みらしい。その上いつも一緒にいつディランの姿が見えないことから、どうやら彼は一人のようだ。確かマークもバス通学だったはずだから一緒に帰ろうと誘ってみようか。一人で帰るより二人で帰った方が話も出来るし楽しいだろう。
 そう考えて口を開こうとしたとき、マークも何か言おうとしたようで声が被ってしまった。驚いて口を噤むと、マークも口を噤む。何だかおかしくなってくすくすと笑みを溢すと、マークは照れたように頬を赤くした。


「良かったら、一緒に帰らないか?」


 そう申し出てくれたマークに私は素直に「うん」と頷き、バス停までの道のりをマークと並んで歩き始める。
 マークは器用にサッカーボールを足で蹴りながら歩いているため歩く速度はちょうどいい。


「すごいね、それ」
「そうか?」
「うん、さすがマーク」


 私はマークのようにボールを蹴りながら自然に歩くことなんて出来ないし、軽やかにリフティングだって出来ない。誰かに聞いた話だが、マークはミッドフィルターでクラブのキャプテンを務めているそうだ。きっと人一倍努力して、上手になったのだろう。


「サッカーおもしろそうだね」


 ぽつりとそう呟くと、マークは嬉しかったのか表情を明るくさせて、ボールを蹴る足を止めて私に向き直った。不思議に思って私も足を止め、マークに向き直る。するとマークはふわりと笑みを浮かべて、言った。


「今度の試合、見に来てくれないか?」


 名前がいると頑張れるから、と続けて微笑んだマークに、私は頬が熱くなるのを感じた。唐突なお誘いだが「う、うん!もちろん行くよ」と精いっぱい声を絞り出して大きく頷く。するとマークは嬉しそうに微笑んで、私の手を握った。マークの手は私の手より少し大きくて、温かい。私はマークの手を握り返して、マークに笑顔を向ける。


「やっぱり今日、ついてる」


 ぽつりと、そう呟く。すると私の呟きの意味がわからなかったのかマークは首を傾げたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべて、私たちはバス停へと再び歩き始めたのだった。



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