今日のランチは友人と一緒にカフェテリアでとることに決めた。テラスから見える中庭の芝生の緑が太陽の光できらきらと輝いていて、眩しさで目を細める。そのとき「名前、お待たせ」と友人がチョコチップのカップケーキ2つとサンドイッチとティラミスをトレイに乗せてやってきた。だがそこには私が頼んでいたミートパイの姿はなく。
「あれ、ミートパイは?」
「売り切れ」
「そっか」
「デザートのティラミスはあったけど?」
「やった!」
このカフェテリアはミートパイがおいしいと評判で、生徒たちはこぞってそれを食べようとやってくるのだ。そのため早くから売り切れてしまう。今日はまだあると思ったのだけれど。ミートパイが売り切れていたのは残念だが、サンドイッチもおいしいので良しとしよう。
ランチのサンドイッチを頬張りながらカフェテリアの人の流れを横目で見ていると、二人、誰かがこちらへやって来るのが見えた。綺麗なブロンドの髪に、碧い瞳の彼と、アイガードをつけてこちらに手を振っている彼。
「名前!」
「名前、チューッス!」
私に声をかけてきたのは同じクラスのマークとディランだ。「マーク、ディラン、どうしたの?」と尋ねると、マークはふわりと笑って「ディランがミートパイ食べたいって言うから買いに来たんだ」と言った。
「だけど売り切れてたんだ!ミーは悲しくて泣きそうだよ」
「ここのミートパイ人気だもんね」
椅子がちょうど二つ開いていたので二人に座るよう促すと、二人は「Thank you」と言って微笑んだ。彼らはランチボックスを持ってきているようで、どうやらミートパイを買おうとしたのはディランの気まぐれのようだ。
私と友人、マークとディランの四人で今日の授業であったことなど他愛もない話を交わす。「合唱のときに咳き込んじゃってさ」「ミーは思いっきり歌詞間違えたよ」四人でのランチは初めてで、何だか新鮮だ。
サンドイッチを食べ終えてデザートのティラミスにスプーンを伸ばし、一口食べる。ほのかな甘みが口の中に広がっておいしい。うちの学校のカフェテリアのメニューはどれもおいしいものばかりだ。
するとそのとき、マークがティラミスをじっと見ていることに気がついた。食べたいのだろうか。そう思ってマークに「いる?」と尋ねると、マークははっと我に返ったのか「それは名前のだから、俺はいいよ」と微笑んだ。何だかマークが遠慮しているように見えた私は少し考えて、マークにスプーンを差し出した。
「はい、あーん」
マークは驚いたように目を見開かせて頬を赤くしたけれど、やはりティラミスが食べたかったのだろう。ぱく、とマークが一口食べて、私はまたティラミスを一すくいマークに差し出すと、彼はぱくりとそれを口に入れる。
「おいしい?」
「ああ」
マークはとても嬉しそうに笑って頷いた。可愛いな、と思わず私まで笑顔になってしまう。ティラミスはもう半分になってしまっているが、このまま半分に分けてマークに食べさせてあげよう。そう思って再びティラミスにスプーンを向けたそのときだった。
「ねぇ、そこのお二人さん」
ベリー味のジュースを飲んでいた友人が、私たちにそう切り出した。
「何?」
ディランもやれやれというふうにこちらを見ていて、どうかしたのかと首を傾げる。ティラミスを食べているマークも不思議そうに首を傾げた。すると友人とディランはお互いに顔を合わせて、頷き合う。一体なんだというのだ。もう一度「何?」と尋ねると、二人は呆れたように言った。
「公衆の面前でイチャイチャしすぎ」
「!!」
確かに「あーん」なんて、どこの漫画だと羞恥で思わず目を背けてしまいそうになる。二人にそう言われ、なんて恥ずかしいことをしてしまったのだと穴があったら入りたい気持ちになったが、マークはよくわからなかったようできょとんとしている。
(まぁ、マークが幸せそうだったからいいかな)
恥ずかしさで赤くなった頬で隠して、私はまたマークに「あーん」とティラミスをあげたのだった。
0414/典型的ではありますが