「好きだよ」と言われたときは自分の耳が信じられなくて声を発した本人である私の目の前にいる彼を茫然と見つめたのを覚えている。いつも楽しそうに友人とからかい合って笑う彼がこんなに真剣な顔をすることもあるのだとぼんやりと思っていると、彼の頬がみるみるうちに赤く染まっていくのがわかった。
 真剣な表情と赤い頬という不思議な組み合わせと告白されたということに頭の中が真っ白になってしまったけれど、私は小さくこくりと頷いた。すると井浦くんはぱあっと表情を明るくして、柔らかい笑みを浮かべた。もちろん、頬は赤いまま。



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 そんなことがあったのはついこの間の月曜日の放課後のことだ。井浦くんの言葉を頭の中でリピートしてしまう自分がいて、そのたびに色々な感情が心を埋め尽くしていく。告白されたときは頭が真っ白になって何も考えられなかったのに、後になって冷静になると状況をきっちり判断してしまう。頷くだけじゃなくてちゃんと声で返事をすればよかった、なんて。後悔しても後悔しきれないのだけれど。

「今何してるのかな」

 私と井浦くんは同じクラスでないため、学校で会えるのは休み時間や放課後だ。
 クラスが違うと授業の内容や担任の先生の話、友人の話など、なにかと知らないことが多い。お互いに知らない情報を持っているから話が尽きないと思うかもしれないが、井浦くんと話そうとすると頬が熱くなってしまうからそうでもない。きっと緊張しているのだろう。付き合っているというのに私がこんな調子ではいけない。
 ぼんやりと溜息を吐いて、顔を上げる。すると、教室の入り口に井浦くんが立っているのが目に映った。彼は私と同じクラスの宮村くんと話していて、私には気付いていないみたいだ。

「井浦くん」

 ぽつりと呟いた声は、騒がしい教室の中では彼の耳に届かなかった。

「次移動教室だよー」
「あ、わかった」

 友人にそう声を掛けられて、教科書などを用意して席を立つ。私の席は井浦くんのいるドアの反対側のドアから出るほうが近いためそうしようとしたのだが、やはり井浦くんが気になってしまう。そう思ってぱっと顔をあげると、ばちりと彼と目が合った。
 突然のことに驚いて目を見開かせると、井浦くんも驚いたように目を瞬かせて、ふわりと優しい笑みを浮かべた。

「今日、一緒に帰ろう」

 休み時間の騒がしい教室では彼の声は届かなかったけれど、そう彼の口が動いたような気がした。嬉しさからか自然に笑みが漏れて「わかった」と私も口を動かし、小さく彼に手を振った。
 ああ、早く放課後にならないかな、なんて。次の授業は三時間目なのにね。


0206/あいずひとつでできること
桐谷さま
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