「ナマエ!!」
「わっ!?」

 突然背中を大きな衝撃が襲った。
 
 背中に圧し掛かった重さに耐えきれず間抜けな声を出して、そのままべしゃりと前に倒れこんでしまう。床にぶつけてしまった額がじんじんと痛んで、じわりと涙が滲んでしまった。

 私に飛びついてきたであろう犯人はと言うと「大丈夫?」なんて私の背中に圧し掛かったまま不思議そうに首を傾げている。私はその犯人をじとりと一睨みをして、圧迫されている肺で精いっぱい息を吸って、「ロココ!重いからいい加減降りてよ!」と叫んだ。


「あ、ごめん!」


 思い出したように私に謝った犯人の名前はロココ。コトワール代表のゴールキーパーだ。

 ぱっとロココが私の背中から離れ、圧し掛かっていた重さから解放され、ほっと安堵の息を吐いて立ち上がる。彼が私に飛びついてくるのは意図があってではなく会えて嬉しいからだと大介監督は言っていたけれど、今日こそロココを叱らなければこっちの身が持たない。

 ロココの身長は私より高いし、細身に見えるがしっかり筋肉が付いているものだから、もちろん体重も重い。そんな相手にいきなり後ろから圧し掛かられては、誰だってこうなるだろう。


 それなのに、ロココは悪気なんて微塵も感じさせない笑顔で「えへへ」と笑う。それを見て、叱ろうと開きかけていた私の口は声を発することなく閉じられてしまった。割儀がないなら叱れないなんて。結局のところ、私はロココに甘いのだ。

 するとロココはまた何かを思い出したように「あ!」と声を上げた。


「ナマエ!あのね」
「何?」
「新しい必殺技が完成したんだ!だから、早くナマエに見てほしくて」
「おめでとう!え、私に?」
「うん!」


 そう言って、今度は手をぐいっと引かれて走り出す。ロココの手はいつの間にか私の手より大きくなっていて、ゴールキーパーの練習をしているからか豆の跡などがありごつごつとしていた。男の子の手である以上にゴールキーパーの手だ。

 ロココはとても嬉しそうで、思わず私も笑みが漏れる。繋いだ手から伝わるロココの体温が心地よい。今日圧し掛かったことは大目に見て、最高の笑顔を彼にあげようと、そう思った。


1105/ビューティフル・デー
ナノさま
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