私は何も出来ないのだと思うことがよくある。
それを一番大きく実感したのは一之瀬の事故だった。

庇おうとしたのに庇いきれなくて、一之瀬は怪我を負ってしまった。私も怪我を負ってしまった。私の怪我はサッカーを愛する一之瀬の怪我に比べれば軽いものだけれど、その私の怪我のせいで一之瀬は苦しんでいる。

私はそんな一之瀬に曖昧な頬笑みを向けることしか出来ない。
そんな顔しないでと言えないまま。笑って、とも言えないまま。


そして、今はマークが悲しんでいる理由がわからない。慰めることすら出来ない。ただ、抱きしめ返すだけ。なんて私は頼りないんだろう。


思わず溢れそうになる涙を堪えてマークにしがみつくと、マークが不思議そうに「ナマエ?」と私の名前を呼んだ。
ねぇ、マーク。私、怖いよ。私は何も出来ない人間だっていうことを認めたくないんだ。だって認めてしまったら、私は。

唇が震える。
もう何もかも今まで心に閉まってきたものを全てマークに打ち明けてしまいたい。一之瀬は罪を感じているけれど、それは私が背負うものであって一之瀬は悪くないということ。一之瀬が罪悪感を感じる必要はないのだと。私が全て悪いのだということ。

きっと私はマークに「大丈夫だ」と言ってほしいのだろう。いや、誰かに許してほしいのだ。一之瀬に許してもらわなければ、そんなものは無意味だというのに。


「ナマエ」


そして、マークがもう一度私の名前を呼んで優しく頭を撫でてくれたときだった。


「マーク、ナマエ!ディナーだよ!」
「こら、ディラン!待てって言っただろ!」


ドアが大きく開いてディランと土門が部屋に転がり込んできた。驚いて二人を見つめて、マークをちらりと横目で見ると、マークも驚いたのか目をぱちぱちさせている。

するとディランは茫然とする私たちを見て、「ミーも一緒にお昼寝したいよ」と笑った。「お昼寝って時間でもないけどな」と土門はディランの隣で頭を抱えている。


「すぐに行くよ」とマークが言うと、土門は「わかった」と言ってディランを抱えて部屋から出て行ってしまった。あの慌てようはどうしたのだろうか。


起き上がってベッドから降りようとすると、マークが手を差し伸べてくれた。私は微笑んでその手を取る。


「明日は朝早いから、早く寝ないとね」
「そうだな」
「世界への挑戦、かぁ」
「ああ」
「ユニコーンならきっと世界一になれるよ」
「…ああ!」


明日からは合宿が始まり、そして、その一週間後にFFIが始まる。こうやって穏やかに時が流れるのは今日で最後かもしれない。世界の強豪の壁は高く、世界一になるためにはきっと困難な道のりを歩まなければならないだろう。

私は彼らのために何が出来るのかわからない。どうして私がマネージャーに採用されたのかもわからないのに。


すると、マークが私の手を握る力が強くなった。驚いて顔を上げるとマークはふわりと微笑んでいた。


「ナマエやディラン、カズヤ、アスカと一緒なら俺は頑張れる」
「…私もだよ」


マークと一緒なら、私はきっと。
握り返した手は温かくて、ただずっと彼の傍にいたいと願った。


0813
(差し込んだ一筋の光)