ふと肌寒さを感じて目を覚ますと、ゴウゴウというジェット音が聞こえ、自分が飛行機に乗っているということを思い出した。窓の外は暗く機内のほとんどの明かりは消えていて、足元の誘導灯がぼんやりと光っていた。


「ん…」


隣で眠っている名前はすやすやと寝息を立てて眠っている。そのとき名前の肩にかけられていた毛布がするすると落ちて、包帯が巻かれた白い華奢な腕が現れた。


「一哉、一哉…いやああぁ!」


あの事故の時、泣きながら自分の名前を呼ぶ名前の声はずっとずっと聞こえていた。
意識を手放しそうになった時に瞳に映った彼女は、彼女の真っ赤な血で染まった腕を気遣う様子もなく俺の名前を呼んでいた。今もずっと悔やんでいる、過去。

その腕を優しく撫でると、名前は少し身体を強張らせた。はっとして手を引っ込める。リハビリの辛さを誰よりも知っているのは自分ではないか。軽々しく触れてはいけない。


たとえそれが愛しい人でも。自分が彼女に触れられる権利なんてない。


小さく舌打ちをして、どさりと背もたれに倒れる。そのとき、名前がまた身じろいで、眠そうに目を擦りながらゆっくりと背を起こした。驚いて振り向くと、彼女も意識がはっきりしたのか驚いている。


「一之瀬…どうしたの?」
「名前、ごめん。起こしちゃった?」


安心させるように微笑むと、名前はいつものように表情を曇らせた。もう慣れたはずのその表情にちくりと胸に痛みが走る。ただ微笑んで欲しいだけなのに彼女はあの事故以来、俺が微笑むといつも顔を曇らせる。微笑んでくれないことはないのだがその笑顔は心からのものではなくて―曖昧なもの。



「…名前?」
「一哉っ…喋っちゃ駄目!今救急車が来るから…」
「名前、俺は…大丈夫だから」

泣かないで、



あの日から、名前はまだ―後悔しているんだ。


きっと今自分はとても思いつめた表情をしているだろう。だが機内は暗いため、表情は見えないはずだ。
すると名前は再び睡魔が襲ってきたのか、あくびを一つこぼした。


「ん…やっぱりまだ眠い」
「朝食の時間になったら起こしてあげるから寝てなよ、名前」
「うん、そうする…おやすみ」


毛布を深く肩に掛けると名前はゆっくりと瞳を閉じて、再び眠りに落ちた。規則正しい寝息が聞こえる。

アメリカに着けばアメリカ代表のメンバーとしての練習が始まる。エイリア学園との戦いの日々はともかく、今日のようにこうやってゆっくり名前と離せる時間はなかなか確保出来ないだろう。

名前はリハビリをしながらマネージャーをするらしい。アメリカで名前と中の良かったマークもアメリカ代表に選ばれている。マークならこの機会を放っておかない。


とりとめのない不安が後を絶たないけれど彼女の寝顔を見ているとそんなことは忘れてしまいそうなくらい、幸せだった。


「名前、良い夢を」


額に落としたキスは、まだ秘密。



0501
(少年よ、大志を抱け)