見上げた空にはたくさんの飛行機雲が交差していた。


「名前、はぐれないでよ」
「私はそんな心配されるほど子供じゃないよ」
「さっきまで迷子だったやつが言う台詞か?」
「うっ…土門のばか!」


アメリカ行きの便の飛行機への搭乗手続きを済ませて私たちは搭乗ゲートへと向かっていた。国際空港は広く、多くの人で混雑している。

私はリハビリという名目で日本の稲妻総合病院に入院していた。アメリカではリハビリの一環で足腰を鍛えるためにサッカーをしていたのだが、稲妻総合病院では認められず、病院内でサッカーとは無縁の生活を過ごした。そのため、一之瀬や土門のようにイナズマキャラバンとしてエイリア学園と戦っていない。

二人から聞いた話だが、西垣も木戸川清修中学校でサッカーをしているそうだ。彼らは皆とサッカーをしていて、秋もマネージャーとしてサッカーに関わっている。サッカーをしたいと思い続けながら病院のテレビで彼らを見つめていた私にとって、彼らは誇りでもあり、また同時に妬んでしまう存在だった。


「秋が会いたがってたよ」
「私だって会いたかったけど、まだ完治してないから会えないよ」


心配かけちゃ駄目だから、と続けてぶっきらぼうに一之瀬にそう返すと、彼は何故かふわりと微笑んだ。

その瞬間、私は弾かれたように一之瀬から視線を外した。

あの事故に遭ったときから、彼はいつも私に微笑み掛ける。私がどんなに理不尽な怒りを彼にぶつけても、彼は優しく笑う。それが苦手だ。心配されているようで、この傷のことをまだ後悔されているようで。


「一哉っ危ない!!」


そう言って彼の背を追って道路に飛び出した私が悪いのに。


(―ところで、私はまだリハビリ中でこの傷も完治していないのに、どうしてアメリカ代表のマネジャーに選ばれたんだろう?)


私は小さくため息を吐いて、手に巻かれた包帯を見つめた。先日アメリカから連絡が入ってから、ずっとそのことばかりを考えている。十分に動かせないこの左腕で、マネージャーとしての役目が務まるかわからない。

日本の病院でもリハビリを続けたが、思うような結果は得られなかった。アメリカ代表のマネージャーに選ばれたというのは表向きで、本当はアメリカでリハビリを続けたほうが良いと判断されたからなのではないかと思ったが、そんなことをする必要はないから違うだろう。


(とにかく、早く治さなきゃ)


「名前」


そのとき、隣を歩く一之瀬に声を掛けられ、思わず肩が揺れた。はっと彼を見つめると、一之瀬は真剣な表情で私を見つめている。


「な、何?」
「…傷、痛む?」


ほら、やっぱり君は、まだ―後悔しているんだ。


「名前!一之瀬!何立ち止まってるんだよ、先乗ってるぞ」


顔をあげると、土門は少し離れたところで不思議そうに私たちを見ていた。彼の前の電子掲示板には私たちが乗るアメリカ行きの便名が映っている。どうやら搭乗ゲートに着いたようだ。


「土門、待ってよ!」


そう返事をして、私は一之瀬の隣を走り抜けた。

後ろで一之瀬が小さく「名前」と、私の名前を呼んだことに気付かないふりをして。



0510
(いっそのこと自業自得だと憎んでほしい)