私たちを乗せた飛行機は、無事ライオコット空港へ到着した。ライオコット空港は国際空港だけあってとても広く、たくさんの人で溢れていて、電子掲示板には様々な空港会社の飛行機の便の名前が映し出されている。イギリス、フランス、スペイン、ブラジルからなど、滑走路へ着陸する飛行機は絶えない。

ライオコット島に着いてすぐ、アメリカエリアの宿舎へとバスで移動する。窓から見える風景が変わっていくのがおもしろくて、皆窓の外に釘付けだ。選手のほとんどはサッカーの練習試合や合宿などで欧州を訪れているためイギリスなどの風景は見慣れているが、アメリカから離れた日本の風景を見るのは初めてのようで感嘆の声を上げていた。配られたマップを見てみると、コトアールエリアというのもあるようだ。

すると、窓の外の風景が見慣れたものに変わった。どうやらアメリカエリアに着いたようだ。バスから降りて空を見上げると、澄んだ青い空がそこには広がっていた。星条旗が風にはためいているのが見える。ああ、本当に来たんだ。ライオコット島へ。フットボールフロンティアインターナショナルの舞台へ。

荷物の運び込みとこれからの予定のミーティングを終えたときには、もう太陽は真上ではなく少し傾いていた。


「なんだか緊張するな」
「ああ」
「監督は休めって言ってたけど、さっそく日が暮れるまで練習だ!」
「ミーも早くボールを蹴りたいよ!」


合宿所の裏手には練習場があり、マークとディランはさっそくそこで練習を始めるようで、走っていってしまった。その後ろを土門が追う。皆はとても嬉しそうで、思わず私まで嬉しくなってしまった。彼らが練習をするのなら、私はドリンクとタオルを用意しよう。

そう思って足を踏み出したときだった。一之瀬が、私の右手を掴んだのだ。
不思議に思って振り返ると、彼は驚いたように目を見開いていた。手を掴んだのは一之瀬の方なのに。一体どうかしたのだろうか。不思議に思って首を傾げる。


「どうしたの?」
「いや、えっと、ごめん!何でもないんだ」


すると一之瀬は土門の背を追って走り出した。ジャージの上着を、私の肩に掛けて。


「え?」
「肩出してると冷えるだろうから、それ着てて。それから名前は今日はゆっくり休みなよ。いつも頑張ってるから」


ドリンクとタオルは俺が用意するから、と続けて一之瀬はふわりと微笑み私に背を向け練習場へと走って行ってしまった。私は少し驚いてその場に暫し立ち尽くす。一之瀬が掛けてくれた上着には彼の体温が残っていて、温かい。


「…一之瀬、ありがとう」


彼の言葉に甘えて、ここ最近忙しい日々が続いていて、自分の時間を取ることさえできなかったから、今日は休ませてもらうことにしよう。そしてイギリスエリアでダージリンティーを買って、練習が終わったら彼らに淹れてあげよう。
そうと決まれば、さっそくイギリスエリアに向かおうか。







イギリスエリア行きのバスはそれほど混んでいなかった。もうすぐ日が暮れるから、きっとサポーターや観光客たちは滞在先へと帰っているのだろう。
イギリスエリアは古きよき街並みが広がっていた。パンフレットを見ると本国から数百年前の煉瓦も取り寄せたらしい。

石畳を軽やかに踏みしめて歩く。通りにはたくさんのお店があって、私の目当てでもある紅茶専門店も見つかった。店主のおじいさんはとても優しく、彼の店のダージリンティーの茶葉はとても美味しい紅茶が出来ると評判だそうだ。
それを買って店を出ようとしたとき、誰かが出ようとしていたようで、ドアの所で鉢合わせしてしまった。


「お先にどうぞ」
「ありがとうございます」


譲ってくれた相手にふわりと微笑むと、彼は驚いたように目を丸くした。それを不思議に思い、立ち止まる。すると、先を譲ってくれた人は私に尋ねた。


「もしかしてあなたは、ユニコーンのマネージャのナマエ・ミョウジですか?」
「?そうですけど、あなたは…?」


すると、目の前の彼はほっとしたように微笑んだ。


「申し遅れました。私はイギリス代表ナイツオブクイーンのキャプテン、エドガー・バルチナスです」
「!」


目の前にいる彼が、イギリス代表ナイツオブクイーンのキャプテン、エドガー・バルチナス。まさかこんなところで会うなんて、と驚いてしまった。ユニフォームでなければジャージでもないタキシードを着ていて、堅苦しそうだ。すると彼はそんな私の視線に気付いたのか「これからパーティーがあるんです」と教えてくれた。そうなのかと納得すると、彼はまたふわりと微笑んで、手紙のような封筒を私に差し出した。


「?」
「ミスミョウジ、よろしければ明後日の私たちのパーティーに来て頂けないでしょうか?」
「え?」
「正装などはこちらで用意します」
「え、えと」
「お待ちしていますよ。ユニコーンの肩翼の女神」


どうやら封筒はパーティーの招待状が入っているようだ。流暢なイギリス英語に感心しながら頭にハテナを浮かべて首を傾げたが、エドガーはそのまま私に招待状を渡して去ってしまった。


「一体何だったんだろう」


とりあえずわかったことは、私はパーティーに誘われたということと、エドガー・バルチナスは英国紳士だということ。片翼の女神、だなんて皮肉なものだ。彼はもうすでにマネージャーである私の怪我のことさえも知っているらしい。自意識過剰なだけかもしれないけれど情報収集の徹底ぶりに呆れてしまった。


「彼とは合いそうにないな」


溜息混じりに呟かれた私の声は、午後六時を知らせる教会の鐘の音に掻き消された。


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(久しい休息と出会い)