一之瀬がアメリカのプロリーグから正式なオファーを受けたということは、土門と私以外のチームメイトにはまだ秘密にしてある。マークたちに早く伝えたくてうずうずしていた私と一之瀬を引き留めて、監督が「まだ秘密にしておけ」と言ったからで、FFIが終わった後に正式に発表するためだそうだ。

空港へ向かうバスの中でも、飛行機の中でも一之瀬は嬉しそうに微笑んでいた。そんな一之瀬を見ると私も嬉しくなる。


「何か良いことでもあったのか?」
「う、ううん!何でもないよ」


自然と微笑みが漏れてマークにそう尋ねられたけれど、真実を告げることは出来ない。誤魔化すように笑った私にマークは怪訝そうに眉間に皺を寄せたけれど、すぐにふっと笑って私の頭を撫でた。



ライオコット島へと出発した機内では、私はマネージャーとしての仕事に専念した。FFIに参加する国々の各チームの予選の記録やプレースタイルを検証するのは一筋縄ではない。

一之瀬や土門も所属していたイナズマキャラバンのメンバーの多くが代表選手として選ばれたイナズマジャパンのビデオはまだ見れていない。そう、イナズマジャパンはアジア予選を勝ち抜き、可能性は低いと言われていたにも関わらず本選へと躍り出たのだ。

そのニュースを知った一之瀬と土門は「彼らにはいつも驚かされるよ」と言って嬉しそうに瞳を輝かせていた。イナズマジャパンの選手たちを知らない私とマークとディランは、少しだけつまらなかったのだけれど。







そんなことをしていると時間はあっという間に過ぎて、機内にライオコット島まで後数十分だというアナウンスが響いたときには、いつのまにか朝になっていた。

小さな欠伸が漏れる。機内での睡眠は慣れているけれど、緊張や興奮などの感情が入り混じってよく眠れなかった。

隣の座席のマークに「おはよう」と言いかけて口を噤んだ。マークはまだぐっすりと眠っていて、疲れていたのか起きる気配もない。起こしてしまってはマークに悪いだろう。そう思って少しぼんやりとしていたとき、ディランの声が聞こえてはっと我に返った。


「名前、マークの顔に何かついてるの?」
「ディラン」
「もしかしてミーはお邪魔だった?」
「変な誤解しないで!」


そんなにじっと見つめてしまっていたのだろうか。マークの左隣にいたディランは目覚めていたようだ。すると既に起きていたのか、一之瀬と土門が前からひょっこりと顔を出した。


「お前らうるさいぞ」
「名前、ディラン、おはよう」
「おはよう!一之瀬、土門」
「グッモーニン!」
「マーク眠ってるから静かにしろよ」
「うん」


窓からはライオコット島や、それに連なる島々が見える。ここが、世界一を決めるための舞台なのだ。

美しい海の色はバッドゲル・ライトブルー。あの森の緑はノース・イースタン・ユタ。広大な大地はアメリカン・ブラウン。目に映るものすべてがきらきらと輝いている。


「ねぇ、名前」
「何?」


そのとき、一之瀬に声を掛けられてぱっと前を向く。きっと一之瀬もわくわくしていたのだろう。彼はとても嬉しそうに微笑んでいた。


「この世界大会が終わったら、聞いて欲しいことがあるんだ」


そう言って、一之瀬は私の左手を取った。



0902
(時が迫る)

■ badger light blue
■ northeastern utah
■ american brown
アメリカの伝統色たくさん