少女は動かなかった。動かずにただ、骸が消失した辺りを見つめている。その景色の中で、少女は完全に浮いていた。
それはつまり、誰かが少女を発見することは想像するに容易いことであり、今まさに黒服の男二人組が少女を見止めた所だった。
二人は、「あれは何だ?」と首を傾げたが、すぐにある結論に至った。それは結論などという立派なものではなく、もっと下世話な――――噂やら憶測、野次馬精神など――――から成り立つものなのだが、兎に角、彼らは少女の正体について僅かながら知っていた。
六道骸が連れてきたとかいう、それも六道骸の婚約者だとかいう、物凄く奇特な少女。それが彼らの知る少女だった。
目立っていたのだ、少女と六道骸という組み合わせは。綱吉がぼんやりのほほんと考えたことは当たっていた訳である。男たちは「どうする?」と顔を見合わせ相談した後、少女に向けて歩みを進めた。
いくら六道骸の婚約者――――噂の通りだとすると、だが――――である少女とはいえ、ここはマフィアの本拠地だ。とてもじゃないが腕っ節が強いとは思えない少女が、一人で突っ立っているような処ではない。もしかしたら待ち合わせでもしているのかもしれないが、それにしては場所が微妙だ。そして上手くいけば、本人の口から真実が聞き出せるかもしれない。
二人はそのようなことを相談して決めた。片方が、目で合図する。もう片方はそれを請けて小さく頷き、少女へと声を掛けた。
「おーい、嬢ちゃん。こんな所で何してる?」
少女は近づいてくる男たちを見ようともせず、ただ「みているの」と素っ気なく答えた。目線は依然として、同じ所に固定されている。
男たちは少女の目線を辿り、思わず「何をだ?」と訊き返していた。それもその筈、少女の目線の先には何も見当たらない。まさか居るはずのないものが視える体質でもあるまいに―――――いや、それこそあの霧の守護者の婚約者だというならば有り得るのではないか。そう考えて、男たちは困惑した。
「始まらないかくれんぼをしてるの。ちっとも隠れてくれないから、探せないのよ」
少女が突然喋り出したので、男たちは驚いた。そして更に困惑した。
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