「骸」

「ねぇ、骸」

「骸ってば!」

ぴたりと骸は歩みを止めた。後ろを小さな歩幅で必死に付いてきていた少女も止まる。少女に振り向いた骸の表情は苦々しいものだったが、少女のそれは反比例して清々しいものだった。それはやっと反応してもらえたことが嬉しいからなのだが、今の骸にとっては大変不愉快な要素でしかない。

「いいですか、よく聞きなさい」

少しの逡巡の後、骸はゆっくりと言葉を紡いだ。少女は、相変わらずその漆黒の瞳を輝かせて骸を見上げる。

「僕は君と結婚する気もなければ、引き取る気もない」

―――――こんな少女に、結婚などという単語を使うこと自体が違和感を覚える。第一に、一目惚れした相手にいきなり求婚するなど正気の沙汰とは思えない。
骸は少女の長い睫毛に縁取られた瞳を見返しながら、そんなことを考えた。

「生活の保障が欲しいのなら、先程の男の所に行きなさい」

確かに綱吉ならば、然るべき措置をとってくれるだろう。優しい彼のことであるから、もしかしたら責任を感じて――――ファミリーを壊したのはボンゴレであり、つまりは少女の生活を壊したのもボンゴレということになる――――引き取って面倒を看るぐらいはするかもしれない。
だが、少女はそんなことは望んでいなかった。俄かに表情が陰る。

「それだけです。では」

前に向き直り、また歩き出す。ゆらりとその後ろ姿が揺れて、消えた。全く以て霧の守護者らしいことに、幻術を使って姿をくらましたのだ。
少女は今はもう無表情で、骸が消えた場所を見ていた。少女だけがぽつんと、まるで持ち主に忘れ去られた人形のように、残された。

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