「さて、と」
ふぅ、と溜め息を一つ吐き、青年は足元を見遣る。そこには人間だったものが転がっている。身に付けている装飾品が高価なものばかりなことから、その男がそれなりの人物であったことが窺えた。現にその男は、最近になって急に台頭してきた中小マフィアのボスだ。
彼の今回の任務は、そのファミリーとの和解―――――だったのだが、何せ屋敷に入った途端に総攻撃されるという歓迎ぶりである。元より平和的解決なんて望まれていなかったのだ。
という訳で彼―――――六道骸は、たった一人で屋敷を壊滅状態にし、その頭である人物を潰したのであった。
しかし彼の纏っているスーツには、一滴の血飛沫もない。ただ、さすがに屋敷中となると数が多かったのか、頬には赤い線が走っている。
「まったく、面倒なことをしてくれたものです」
骸とて死体に何を言っても仕方がないのは分かっているのだが、ぼやかずにはいられなかった。
―――――こんな中小ファミリーとボンゴレでは力の差は歴然で、結果なんて目に見えていただろうに。いや、だからこそか。ああ、馬鹿馬鹿しい。
つらつらとそんなことを考えていた時だ。カチャリという軽い音と共に、部屋の扉が開いた。そこには、息を切らして目を見開き立ち尽くす、少女がいた。
―――――カナリアだ、と骸は感じた。何故だかは彼にも分からなかった。彼の上司のような超直感などというものは持ちあわせていないが、少女をみた時にそう感じたのだ。
見た目からすると歳は12か13くらいか。そのカナリアの少女は、肩で切り揃えられた髪の毛の金色と透けるような肌の白色以外は、上から下まで真っ黒だった。黒い薔薇の髪飾り、首を覆うように巻かれた黒のヴェルヴェットのリボン、レースやフリルがあしらわれた黒いワンピース、丸くて黒々と光る靴。大きく見開かれた瞳の色も漆黒だ。
まるで人形のように整った顔とその華美な服装で、ああそうかと骸は思い至った。そしてその表情を歪ませる。
この少女は恐らく“飼われて”いたのだろう。この世界ではそう珍しいことではない。しかし彼の上司はそのような行為を嫌い、部下である彼もまたそうだった。
back