「骸」

「何です」

「どうして?」

少女は、骸の肩に担がれたまま訊いた。頭が骸の背中側にあるので、少女から骸の表情は読めない。骸からも少女の顔は窺えない。少女は、幽かに震えていた。

「…身体、どこか痛くない?気分は?」

「あれくらいでどうにかなる程、僕は軟弱ではありませんよ」

しれっと言い放った骸の肩の上で、少女はぼろぼろ泣いた。大きな雫が、地面に落ちては模様をつくる。ひとしきり泣いた後、少女は矢継ぎ早に問いただした。

「怖くないの?」

「気持ち悪くないの?」

「キライじゃないの?」

「どうして、来てくれたの?」

その質問を期に少女は黙った。骸も黙っていたが、見兼ねたとでもいうように溜め息を吐いた。少女はびくりと肩を跳ねさせる。骸はどこか突っ撥ねるような口調で、弁解めいたことを話した。

「興味が沸いただけですよ。幻術が効かない人間など、そうそうお目にかかれるものではない」

「それは、だけど、」

「あぁもう、喧しい娘ですね」

ひょい、と少女は肩の上から宙へと移動した。骸が若干低めの『高い高い』の要領で少女の目線と自分の目線を合わせたからだ。勿論そうすると少女は依然地面から離れている訳で、突然のことだったので尚のこと吃驚して小さく悲鳴を上げた。

「ちょっと、え、なに?」

「いいからこれから僕の言うことを一字一句漏らさずに聞き取りなさい。君を今この時から僕の婚約者(仮)にしてさし上げます。いいですか、(仮)ですよ。僕と本当に結婚したかったら、あとは自分で努力なさい」

「え、?えぇ?」

「物分かりの悪い娘は好みません」

「はい分かりました頑張ります!!」

「…まあ、精々頑張りなさい」

そして骸は、呆れたように微笑った。

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