事の発端は、少女が綱吉の執務室に駆け込んできたことだった。全力疾走してきたのだろう、肩で息をする少女の尋常でない様子に綱吉は驚いた。「どうしたの?」と問うと、少女は骸の名を呟いた。
丁度任務から帰ってきて、綱吉へ報告をしに来ていた山本と獄寺も、驚いて少女を凝視した。何しろ彼らは少女と骸の噂を知らないのだし、ボンゴレのボスである綱吉の執務室にノックもなしに駆け込んでくる人物などそうそういない。

「骸がどうかしたの?走ってきたみたいだけど…」

「むく、ろを、骸を、助けて!早く!早くしないと、」

死んじゃうかもしれない、と続いた声に綱吉は部屋を飛び出していた。獄寺と山本もそれに続く。
綱吉が少女の先導で辿り着いた先には、自らの部下が三人倒れていた。自分の中の血液が急速に冷えていくような感覚、骸を助けてと訴える少女、後ろで獄寺と山本が息を呑んだ気配。すべてがぐちゃぐちゃになって、綱吉は立ち竦んだ。
綱吉の指示で三人は至急、医務室に運ばれた。 そうして、少女は会議室へ招かれて現在へ至る。

「君がちゃんと説明してくれないと、君をボンゴレに置くことはできないんだよ」

この科白も何度言っただろうか。

「もう知っていることを説明する必要なんてないでしょう?」

この、科白も。

「…確証はないんだ。ただ、何となくそう感じているだけで」

君の口から聞かないと駄目なんだよ、と付け出して、綱吉は脱力した。まるでドラマや小説に出てくる、自白をさせようと頑張る刑事のようではないか。先程から同じ場所をぐるぐる回っているような会話ばかりしている。この時間ははっきり言って、無意味だ。だって結局解決を齎すのは、探偵なのだから。

「………確証があれば、いいのね?」

「え?」

半ば現実逃避を図ろうとしていた綱吉の耳へ、予想していなかった言葉が届いた。少女は立ち上がると、口元だけで微かに笑ってみせる。少女の口元が薄く開く。
すぅ、と少女が息を吸い込み、それが吐き出される前に―――――部屋のドアが乱雑に開いた。虚を突かれて、一同はドアの方を向く。

「骸、お前、」

医務室に寝かされている筈の骸が、立っていた。少女は目を見開いて、泣き出しそうな顔になった。
骸は少女へとつかつかと歩み寄り、少女の首根っ子を掴んで――――まるで猫にそうするように――――持ち上げた。いきなり宙吊りにされた少女は、怯えたように硬直した。

back

「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -