そうして今度は曖昧な笑みを浮かべれば、ヒバリは解らないといった表情になる。自分でもあんまり解らないよ、ヒバリ。
「――――ま、最後の夏だから、さっ!」
バシャア、繋いでいない方の手で水をぶっかけた。ポタポタとヒバリの黒髪から滴が落ちる。何事か(恐らくは「咬み殺す」と)呟いたかと思うと、愛用の武器を取り出した。
「え、ちょ、待ってヒバリさーん。プールの中でも出せんの? つーかどこから出てんの? ねぇ錆びるよソレ、わぁ!!!」
ヒバリがトンファーを振るうと、水柱ができた。すごー、いつかの山本くんの技みたい。などと思う余裕もなく、私に水が降り注いだ。ヒバリに手をがっしり繋がれたままで逃げられなかったからだ。物凄い勢いのそれは、小さな滝のようだった。
「い、痛い…… ナイアガラの滝……」
痛がる私を尻目に、ヒバリは鼻で笑った。武器を使うなんて狡いと思う。
ヒバリは一旦 手を離し陸へと上がると、いまだ水中にいる私に同じ手を差し出した。
「そろそろ上がるよ。もう充分でしょ」
「うん」
その手に自分の手を重ねると、存外強い力で引き上げられた。プールサイドに置いていた荷物の中に、二枚入れておいたタオルのうち一枚をヒバリに渡す。渡す時、もし今日ヒバリが来てくれなかったらどうするつもりだったんだろうと思って苦笑してしまった。
拭き取れるだけ拭き取って、巻き付けるタイプのタオルを巻き付けた。横にスナップボタンが付いてるアレだ(因みに柄は大好きなミッフィーちゃん)。ヒバリがボソリと「……中学生みたい」と零した。色々な意味で反論できなかった(高校生にしてはぺったんこだし、並中指定のスク水だし……)。
「帰る前に応接室行くよ。あそこならドライヤーも着替えもある」
「はーい」
最後に足を拭いて、サンダルを履いた。ヒバリの隣に並ぶと、何故だかヒバリはこちらをじぃっと見た。
「行くよ」
そう言うと私の手を掴み、歩き出した。何だか今日はやけに手を繋ぐ日だなぁ、とヒバリに手を引かれながら思った。
水の中ではない場所で握られる手は、少し熱い気がした。
「ねぇ、マフィアに夏休みってあるかな」
「ある訳ないでしょ。……というか、君はマフィアになるつもりなの?」
「え、ヒバリの部下になるの」
「……ふぅん。悪くないね、それ」
さよなら、夏の日。
091129 加筆修正