タマ目線



新しく書き上げた原稿を、一番に読んでもらおうと、大事に抱えて先生宅へと向かった。
途中で、なるとひなが畑の中でダンゴムシを探しているのを見かけたので、今日はゆっくり話もできるだろう、とスキップしそうな心持ちで(実際スキップしていたと思う)目的地へと急いだ。

急いだ結果がこれか。
門から中を覗くと、先生は縁側に座っていた。
いつものおしゃれ甚平に、今日はタオルを巻いていない。変わりにゆるゆるとうちわを扇ぎながら、その表情はとても優しい。

そう、優しいのだ。とてもひとりきりでするような表情ではない。
じっと目を凝らすと、ゆれるうちわにチラチラと金髪が見えた。
ギリ、と歯が痛んだのか、手をかける門が痛んだのか。
表情は伺えないが、きっとあの金髪は緩んだ表情で先生の膝の上で昼寝でもしているのだろう。
少し目の前が揺らいだ気がする。

先生の顔がゆっくりと金髪に落ちてゆく。
だから、なんで、
ギリギリ、ギリギリ、ミシミシ
そんなに幸せそうなの

ゆっくりと落ちた唇は何度も位置を変えては降り注ぐ。

バキリ、

門が嫌な音を立てた気がするけど、そんなこと、私の気持ちにしたらどうってことない

わたしにはきっと、あの顔も、あの膝も、あの唇も降り注ぐことはないのだろう。











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「は、なに、今の音…」

緩やかな時間の流れは嫌な音と共に消えた。
顔を上げ、きょろきょろと辺りを見回すが変わった気配はない。

「ん、」

少し動いたからだろうか、ヒロがゆっくりと瞼を持ち上げる。
あぁ、出来るならもう少し緩やかな時間の中にいたかった。

「せんせ、今なんじ…」

まだ眠いのだろう。瞼をまた閉じはじめる。
ゆっくりと髪を梳いてやりながら、携帯のディスプレイを見やる。

「15時よんじ「だぁぁぁあ痛っ!」

言葉を遮り、ゴッ!と思いっきり起き上がった拍子に頭をぶつけあった。

「痛ぁぁああ!…!」
頭のてっぺんを抑えながら、ヒロは悶絶している。
「〜〜っ!」
それはこっちの台詞だ!と思っていても言葉がでない。ヒロは頭のてっぺんで俺は顎。クリティカルヒットだ。

しばらくふたりで悶絶していてが、ヒロがゆっくりと起き上がる。

今日、使い頼まれちょるんよ
頭を摩りながら眉を下げて笑う。うっすらと涙が見える。

「そうか、大変だな」

縁側からそのまま出て行くヒロの後を軽いサンダルを履いて追う。

「面倒くさい。もうちょっと、先生とおりたかったけど、」

「使いが終わったら来ればいい」

「ん」

短い返事をして、門を出たヒロが顔を真っ青にする。

「せ、せんせ、門!門こわれちょる!」

「はぁ?これでもしっかりした木の…

言葉は続かなかった。
木で出来た門は表側に面している角が抉られていた。

ヒロは抉れた箇所を指さしながら、
この島熊おったかな…と言葉を漏らした。
俺は、さっきのバキリと鳴った音が耳の中を反復していた。







方言迷子




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