ズルリ、ズルリ、
電灯もそうない島にやけに嫌に響く引き摺る音が気持ち悪い
それに酒臭さも混じり最悪だ。
「川藤さん…いい加減自分で歩いてくれませんか…重すぎるんです、よ」
ぐぃと肩に回っている酔っ払いの腕を引き、体制を立て直す。
言葉とは逆に、離したくない。この近すぎる距離を。
「なぁんだってー?俺ちゃんと歩けてるよー!ほらほらぁ」
「わ!ちょっと!」
酔っ払い特有のフラついた足取りに、ぐい、男の加減のない強い力に引かれ、前のめりになる
「ちょっ!と!川藤さん!いたい!いたい!」
肩に回っていた手はもはやボクの首をぐいぐいと引っ張っていく。
これだから酔っ払いは嫌いなんだ。
手に力を込めて、男の腕からなんとか抜けようとする。
「なんか、寂しいよな」
今まで騒いでいた男が急に声を落とす。
「半田は寂しがってると思ったのになぁ」
楽しそうだったよなぁ
なんて、半田さんよりも川藤さんの方がほんとは寂しがってたんだ。知ってる。ボクがどれだけ、この男の側でそれをみていたか。半田さんにはわかるまい。
半田さんは憧れだ。書道家として。簡単に追い越せたことは、正直びっくりしたけどね。
「寂しかったのは川藤さんでしょ」
なにかあれば、半田、半田、半田、
「…はは、そうかもな」
隣にいるのはボクなのに
「川藤さん、ボクじゃあだめですか」
緩んだ腕を逆に握りしめた。
「ボクはずっと、川藤さんの隣にいます」
「康介、」
「ね、ボクの方が将来有望株かもしれないですし」
「康介」
少しずれた眼鏡に手をかけると、目を細めた。
「だめだ、」
なにをされるか察知したのだろうか、口元を抑えて体を後ろに捻る。
「好きです。川藤さん」
島の明かりもない満点の星空の下で、暗がりに慣れた目はずっと川藤さんを捉える。
すっ、と顔を近づけた。
「だめだ、康、介…!……吐く!」
咄嗟に身を翻し蹲る。
「…………」
一世一代の告白を、この男は明日には忘れているだろう。もしかすると、今でさえわからないままだったかもしれない。
酒で酔った所につけ込む作戦は失敗だったか。
蹲る背中を摩りながら、この後にキスはしたくないなぁと思い、その涙目をべろりと舐めてやった。
神→川