高校生パロ至綴♀


この学校には王子様が3人いる。
3年の高遠先輩、2年の茅ヶ崎先輩、そして同じ1年の摂津万里。
どう選ばれてるのかは知らないけど、毎年1学年にひとり選ばれるのだそう。
「あれ、高遠先輩と月岡先輩じゃない!?」
「ほんと絵になるよね〜」
窓側で話し込んでいたクラスメイトが中庭にいた先輩ふたりをみつけたらしい。
きゃっきゃと騒ぐふたりにほかのクラスメイトもやってきて、一気に大きな塊ができてしまったのでそっと窓に近い自分の席を離れた。

クラスメイトたちの、誰々がかっこいいとか、アイドルの話とか、好きな人に彼女ができたとかそういうものに全く興味がもてずにいつも話を聞いているだけだった。「綴ちゃんは?かっこいいって思う人とかいないの?」そう聞かれるたび首を捻っていた自分を不思議がる友人たち。
「綴ちゃんにはまだ早かったね」なにが早くてなにが遅いのかわからないまま中学生活がおわった。そして高校生になった今もわからないまま、だと思っていた。
廊下にでて窓によりかかる。ぼんやりと眺めていた渡り廊下に背の高いふたり。
中学時代の彼女たちの気持ちが今、ようやく少しわかった気がした。
憧れて、初めて好きだという感情を知って、それは早々に砕かれて。その切れ味はじくじくと未だ熱をもつ。初恋は実らないって、ほんとだったんだ。
ふと、渡り廊下にいた先輩が上を見上げて目が合ってしまった。
柔らかく微笑んで手をふられたら、無視するわけにもいかない。こちらも緩く手を振り返した。
この先、片思いばっかりだったら辛いなぁなんて。不自然にならないよう視線を外して向かいの校舎に、たまたま目が行った。
向かいの校舎の同階は2年生のクラスがある。こちらと同じ作りで廊下が向かいあう、その窓の向こうの彼と目があった。
ぶすっとした不機嫌そうな顔も一瞬で、すぐに友人たちと話しこんだのをついぼんやりと見送ってしまった。

2年の王子様、茅ヶ崎至、先輩。
王子様の中でもダントツで人気のあるこの人は、彼の笑顔で花は咲き、声は砂糖菓子のように甘くって立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花!本当に王子様そのものなんだとクラスメイトが言っていた。あまりの勢いにそれは女性を例えることわざでは、なんて口を挟めない。
なんでも彼女は中学から同じで、この高校も彼がいるからきた、と断言していた程の熱心なファンらしい。
へぇ、と相槌をうつわたしの前に並べられた写真の数々。これ、出元はどこだろうと心配してしまうくらいのそれは写真部が売りだしているらしい。(茅ヶ崎先輩だけじゃなく学内のイケメンや美人は写真部が売りだし、その売り上げの一部が本人に入るらしい。)
なんでも茅ヶ崎先輩は写真嫌いで有名で、1年時には写真部に許可を出していなかったけど、今年の春先に許可がだされたという。
よって写真部が撮りためていた1年時の写真も売り出され即完売するほどでこれを手に入れるのにどれだけ…!という彼女の嘆きに共感できるはずもなく。
「それだけ売れたらいいお小遣稼ぎだよね。これ1枚いくら?」
「3枚500円!茅ヶ崎先輩の昼食代になるなら安い!」
どうみても友人がもつ写真は30枚以上はある…すご…
唖然と写真をみていたら彼女が「わたしの大のお気に入り!とっておきの一枚、見せてあげる。これもう売ってないんだから」
そう言って出された一枚。
頬がふんわりと色付き優しく甘く、まるで愛しいものを目にしたような。本当に花が咲くのではと思えた。
「これは綴でも惚れるでしょ?」
「惚れるというか…すごい…」
それ以上、言葉がでなかった。



お手洗いから教室に帰る途中。廊下がやけに騒がしかった。きゃあきゃあと遠巻きにみる彼女たちに、あぁだれかいるんだ。摂津がなにかしたのかな。自分には関係ないとそのまま歩いていたら目の前にやっぱり摂津と、普段こちらにはこない茅ヶ崎先輩の2人が並んでいた。
そりゃあきゃあきゃあなるよな、と遠巻きにみる女の子たちの後ろを通りすぎるとき。茅ヶ崎と目があった。気がする。やっぱり少し不機嫌そうな目。そんなに嫌なら、見なけりゃいいのに。その目を無視して自分の教室へ帰った。

その日帰宅したら、いつもと変わらないローファーがひと組。はぁ、と盛大にため息をつき、そのローファーと反対側で靴を脱いだ。
「ただいま」
「おかえり。綴、ちょっと帰り遅いんじゃない?」
「まだ7時にもなってないんで。ていうか自分の家に帰ってくださいよ!」
「お母さーん!綴がいじめる!」
「アンタのお母さんじゃないから!お母さん!」
「帰って早々騒がしい。至くんがいるなんて当たり前じゃない。…やだ、もしかして綴、思春期?!それとも彼氏ができたとか!?」
「は?綴に彼氏?嘘でしょ?…本当なの?本当なら捻り潰す。ゲームで」

学校の王子様、茅ヶ崎至。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、と例えられる男はわたしにとってただの口が悪くてぐうたらなゲーマー幼馴染でしかない。
小学校から別々に進学したものの、家は隣同士で両親は多忙。そんな彼を皆木家は実の息子のように育ててきた。その家族をみて育ったわたしは彼を兄のように…どころではなく弟のように面倒を見続けてきた。
笑顔なんて憎たらしくて胡散臭いし、学校で会ったら不満ですって目でじっとみてくるし、甘くない声で画面に向かって罵倒する。むしろ甘い声なんてきいたことない。雑だし大雑把だし部屋なんて一瞬で散らかる。
帰宅したら毎日いるし少し遅くなったくらいで小言ばっかり。
毎日毎日家で顔をあわせてるのについに高校が一緒になってしまった。受験を終えた綴ははっとした。
もう見慣れてなんとも思わなかったけどこの幼馴染は世間的には顔がいいらしい。ならば学校での立場は想像に容易い。外面がいいのも嫌という程知ってる。
そこで綴が出したお願い。
「絶対!絶対に!3年間接点をもたないこと!わたしの安定した高校生活を送るために!話しかけない!会わない!誰にもなにも言わない!約束してください!」
「…それって一緒にお昼も登下校もなしってこと?」
「そうですなしです。家を出て家に帰るまで!接触はなし!」
「…それ破ったら?」
「一生顔あわせません話しません」
「そんなこと綴にできるわけないじゃん」
「できます!やってみせます!わたしがこの家をでることになっても!」
「そんなに俺と幼馴染だって知られたくない?」
「うっ…」
この顔は綴が弱いとしってるお願いポーズの顔!騙されるな!この顔の下にはしたり顔が隠れてる!
「…幼稚園の頃幼馴染だと知られて嫌がらせされた数々…悪いのはする方だってわかってます、でも、」
「…わかった。約束するそのかわり」
「かわり?」
「毎日2時間は俺と一緒に過ごして」
「え…?」
「毎日2時間。俺とゲームしたり話したり、そういう綴を充電する時間をちょうだい」
「なにを言っるかわかんないですけど、わかりました。2時間一緒にいたらいいんですよね?」

高校に入学して毎日2時間。どころか2時間以上ずっと一緒にいる。ゲームをしたりアイスを食べたりテレビをみて過ごす。
正直今までと変わらない生活すぎて、これが条件でいいのかと思うときもある。
でも自分ちに帰ってほしい。

「綴に彼氏がいないってわかったし。てか綴に彼氏はいらないよね?俺がいるし。はよ着替えてきて。ゲームしよ」
にこ、と笑った顔はあの写真とかけ離れていた。




入学式が終わった後。
写真部に呼び出されて部室へと足を運んだ。めんどくさい。どうせまた写真の売り出しがどうのこうのってやつ。さっさと帰って綴の入学祝いたいんだけど。
「茅ヶ崎。悪いな、」
「いいえ。ところで話って…」
「毎回のことで申し訳ないんだが、茅ヶ崎の写真を出してほしいってリクエストが後を絶たなくてな。毎月1ショットでもどうかな」
「ありがたい話ですけど、前にも話した通り写真が…」
そう断ろうとした時、見知った顔を見つけた。
入学式中に撮られたらしい写真が机に並べられている。
「これは…?」
「あぁ、今年の王子様候補と数人、売り出し候補だな。今年は女子もレベルが高い。このショートカットの子に、ポニーテールの子、あとこっちのこの子にも話がいくと思う」
長い指がさされた人物の中のひとり。
自分がずっと長い間大事に大事にしてきた宝物。
「先輩。この子。この子をリストから外してもらえるなら、写真の件お引き受けします。」


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