子ども部屋のクロゼットの奥
大切にされたおもちゃが役目を終えた時、おもちゃのかみさまに会えるらしい。
“大切に” “役目を終えた時”
たとえかみさまに会えなくとも、それはどんなに贅沢で尊いものだろうか。
おもちゃ箱の底の底、ほかのおもちゃたちに押しつぶされながらガタゴトと揺れる振動に体を委ねていた。


大きな箱の中にいた時だって、ここまで酷くなかった。透明な箱の向こうからキラキラした目でみてくる人間たち。ひとつ、またひとつと選ばれ、向こう側の世界へいった同胞たちを抱きしめる喜びに満ちた顔をじっとみていた。
ぐん、と上から鋼の手が降りてくる。自分の番がきたのだと思った瞬間、体が宙をうき、外側の世界がよりよくみえた。
チカチカと光る世界。
俺は愛されるだろうか。
知らないかみさまに会えるだろうか。


わずかな期待はすぐになくなった。
大事に両手に抱えられることもなく、ごちゃごちゃの鞄の中へつっこまれ、きゅうくつな世界からまたきゅうくつな中へ。
ぽいと宙を舞った体は暗い箱の中。同じように投げ入れられたおもちゃたちがじっと息を殺していた。
「よぅ、新入り」
話しかけてきたのはイルカのぬいぐるみだった。曰く、“クレーンゲームが趣味”の子どもは取れた獲物には興味がないらしい。取れたものは全部この箱の中、ということだ。この箱がいっぱいになったら、俺たちはどうなるんだろう、という不安でいっぱいだった。
そうして、さらに増え続けるおもちゃたちに潰されながら、唯一みえていた天井が見えなくなったころ。こうしてガタガタと揺らされていた。

わいわいと賑やかな声がかすかに聞こえてくると思ったら、箱の中をかき混ぜられる。
ぐちゃぐちゃ、ぐるぐる、何かを探しているような、あてもなく回されているような。
その中からひとつ、ふたつ…とおもちゃたちが連れられていく。もといた透明の箱の中のように。
わずかにおもちゃが減り、空間からみえた天井はいつもの暗いものではない。この色はなんていうんだろう。どこまでも高く、高く、果てのない天井だった。その天井をじっとみつめていると、きゅう、と体の一部が軋んだ。それでも天井を見上げていると、ふと暗くなった。ぱちくりと大きな瞳が箱の中を覗いている。不思議なことに、目があったと感じた。その途端、ひょいと体を持ち上げられていた。
「これください!」
「50円ね」
ぎゅう、と抱きしめられた体は全然痛くなかった。


連れ帰った少女はキラキラと眩しく、ににこにこしている。
「はじめまして。わたしは今日からあなたのカントクです!ツヅルくん、よろしくね」
向けられた瞳、ツヅル、と呼びかける声。
たぶん、俺のことだろう。おもちゃになってるけど、名前なんてなかったあるとしたら記号のような名前。ツヅル。俺が、ツヅル。
そうして少女、カントクはクロゼットをあけると「みんな、ツヅルくんだよ。仲良くしてね!」そう言って俺を箱の中へとしまった。

閉じられたクロゼットの扉。久しぶりに誰かと重ならない空間。自分の手足を動かす。ギチギチ言ってる気がする。箱、のなかには他にも人形たちがいるらしい。暗さに慣れた目が僅かに動くものをとらえた。と、とたんにパッとあたりが明るくなった。明るさに目を細めると、何かが飛びかかってきた。

「oh〜新入りね〜!これでワタシにもコーヒーができたね!」
「コウハイ、とみた」
「わぁ!嬉しいです!ね、マスミくん!」
「どうでもいい…けどカントクの1番は俺だから」
「もふもふNO1だもんね!」
「だーーー!何でもいいから上からどいてくれ!」
「わあ!ゴマメゴマメだヨ!」
「そこはゴメンな!」
「ツッコミ力満載カイカンネー!!」
手を引っ張りあげられやっと立ち上がったと思ったら抱きつかれた。
「ワタシ、シトロンだヨ!チュヂュルよろしくネ!」
「ツ ヅ ル な!」
「こっちのカッコイイロボはサクヤ、もふもふNO1ペンギンのマスミに、巷で流行りのイタル。ワタシたち今日から仲間だヨ!シクヨロネ〜!!」
「よろしくお願いします!ツヅルくん!」
「よ、よろしくな…?その、俺、前のとこでそんなに他のおもちゃと話したことなくて、…こんなに自由に動いたりとかも…ここではみんなこうなのか…?」

そう言うとシトロンたちは顔を見合わせる。

「まぁ、俺たちもきた時は驚いたけど。カントクさんはいい子だよ」
「そう!いつもワタシたちと遊んでくれるネ!」
「はい!必ずみんなに一言ずつ声をかけてくれるんです!」
「カントクは天使」
「まぁ、遊びのご飯が毎回カレーなのと、オシバイには付き合わされるけどね」
「カレー?オシバイ?」
「カントクのお父さんがゲキダンのカントクなんです!オシバイっていうのは、モノガタリを演じることらしいですよ!」
「カントクはオトさんのゲキダンでみたオシバイを覚えてワタシたちと遊んでくれるヨ。ワタシ、いろんなヒトになったネ!」
「いろんなモノガタリがあって、とってもおもしろいんです!明日、きっとツヅルくんも一緒にオシバイができますよ!」

にこやかにカントクやオシバイのことを教えてくれる。ここはあの箱の中よりも楽しいところなのだろうとわずかに体がうずく。
「あした、楽しみだな」
「さ!ツヅル、探検にいくヨ!」
「え、今から!?」
「会わせたいヒトがいるんです!」
「会わせたいヒト?」
「俺たちの大センパイ」
「センパイ…?」
「オレたちがくる前からいるんですよ!なんでも知ってるんです!」
「困ったらすぐいくネ〜!」

クロゼットはおもち箱の他に、カントクお気に入りの洋服やたくさんの本の間をくぐりながら奥の奥へ。
暗い奥の突き当たり、小さな扉が現れた。
サクヤが扉を開くとそこには小さなベッドと机、それから椅子には…

「チカゲさん!こんばんは!」
「小判バンバンネー!」
「……」
「ほらマスミも挨拶。お疲れさまですセンパイ」
「やぁ、こんばんは。それから…新入りかな?」
「はい!ツヅルくんです!ツヅルくん、オレたちみんなのお医者さんのチカゲさんです!」
「お医者さん?」
「壊れたところを治すんだよ」
「あなたが?」
「そう。俺じゃ不安かな?」
「あっ!いや、そうじゃなくて…その…“お医者さん”に会うのは初めてで…」
「なんだ。そういうことなら今日は大目にみてあげようかな。何かあったらすぐおいで。壊れたところを見るでも、困ったことや楽しかったことでも、何だってここにきたらいい」
「ワタシもたまにおしゃべりつつきにくるヨ!」
「オレもです!チカゲさんとのお話とっても楽しいですよ!」
「じゃあ、またこさせてください」
「あぁ。まってるよ。」

そうしてチカゲさんの病院を後にする。
チカゲさんはクロゼットに長く住んでいるらしく、カントクのことも詳しいらしい。(これをきいたときマスミが怒ってた)けど、チカゲさんはカントクとあそぶことはないらしい。

「お医者さんのシゴトが忙しいから、カントクから隠れてるんですって!おもちゃはあそぶことが役目なのに、オレたちのことを優先してくれるなんて、優しいですよね。でもいつか、チカゲさんもカントクと一緒にあそべたらいいなって思います。だってみんな一緒の方が、やっぱり楽しいですもんね!」




◎簡単な設定
サクヤ…懐かしみのある丸みを帯びたロボット
マスミ…もふもふペンギンのぬいぐるみ
シトロン…オルゴール人形
イタル…有名な人形師が作った人形
ツヅル…クレーンゲームのぬい
チカゲ…おもちゃのお医者さん

ジュウザ…くるみが割れないくるみ割り人形
バンリ…監督父が劇団仲間からお土産でもらった毛並みのいいキツネのぬいぐるみ

◎閑話

イタルと…

「イタルさんはなんで巷で有名なんですか?」
「俺というか、俺を作った人が、かな」
「へぇ」
「それだけ?」
「まぁ、俺、ヒトのことはわかんないんで」
「…そう。でも俺はツヅルのこと知ってるから」
「へ!?」
「だって、カントクが好きなアニメの村人Cのぬいでしょ。ツヅルって名前はカントクさんがつけたっぽいね…ってなにその顔」
「いや…俺のことだけ知られてるのはなんか…ちょっと…」
「じゃ、俺のこともっと知ってもらうためにお勉強しようか」
「えっ、ちょ、イタルさんどこへ…!?」

シトロンのこと

シトロンは元は海外のオルゴール人形だそうだ。お土産としてはるばる海を越えてカントクの家へ来たヨ。といっていたが、肝心のオルゴールの姿はない。
「ワタシ、取り外し可能のスーパードールネ!オルゴールは大事にホカンされてるヨ」
といっていたが、わずかに寂しそうな顔をしていた。いつか、シトロンの国のオルゴールをきいてみたい。春の音色がするそうだ。

マスミと
「なぁマスミ、もうこれくらいでいいんじゃないか?」
「ダメ。カントクにふわふわを届けないと。ほらちゃんと背中して」
ふわふわすぎてもうどこをやるんだっていうマスミの背中。きいた話だとカントクが父親といった水族館のお土産コーナーで、棚に並んでいたマスミが一目惚れしてしまい、危うく棚から落下…のところをカントクに助けられそのまま連れ帰ってもらったそうだ。恐るべしもふもふ。
指先にあたる毛並みがふわふわ。上質だなぁなんて思って、ふわふわ、ふわふわ、なんだか眠くなってきた…

「…ちょっと、ツヅル…重たい。…俺の背中、カントク専用なのに。」
「と言いつつ振い落さないんだなマスミ」
「イタルうるさい。」

サクヤと
サクヤは丸みを帯びているけど、かっこいいロボットだ。けれど、胸にぽっかり穴があいていた。たぶん、1つパーツがあるんだと思う。
その欠けたパーツの代わりに、サクラが嵌められている。なんとも無理やり感があるけど。カントクが持っていた小さなサクラのおはじき。かっこいいのに胸にはサクラ。それが妙にあっている。
「オレ、捨てられていたところをカントクに拾ってもらったんです!今よりもっとボロボロだったんですけど、カントクとカントクのお父さんが綺麗にしてくれて…1つパーツの欠けた分を、大事にしていたこのサクラで埋めてくれたんです。」だからこれは、オレの宝物なんです!
そういったサクヤの表情はかわらないはずなのに、とても柔らかくみえた。

チカゲさんと

「チカゲさん、いますか」
扉をコンコンとたたいてから中に声をかける。
「ツヅル?いいよ入って」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「そこ座って」
「はい」
「今日はなにかききたいことでもあった?」
「なんでわかるんすか?」
「どこも怪我してなさそうだし、困ってもなさそうだったから、かな?」
「さすがっすね」
「もう何年も“お医者さん”をしてるからね。それで?ききたいことって?」
「あぁ、えーと、説明が難しいんすけど…イロを教えてほしくて」
「イロ?….色かな?」
「っす。俺、カントクが見つけてくれる前までずっと天井をみてたんすよ。今までみてきた天井よりずっとずっと高くて、綺麗で、たまにカントクの透明な四角い箱の向こう側にもみえるあれ、あのイロを知りたい」
「高くて…綺麗…ふむ。ソラのことかな」
「ソラ?」
「あれは天井じゃなくて、ソラっていうものだよ。ソラには果てがない。かわりに、いろんな色をもつ。クモリなら暗く、アメならミズが。ユキだってある。ソラはひとつの色を持たない。」
「色を持たない」
「色を持たないから、その日限りのものがみえる。」
「同じじゃないんすね」
「そう、同じものはないんじゃないかな。クロゼットの中に、カントクお気に入りのソラの本がある。今度借りてみるといい」
「まじすか!そうしてみます!でも、」
「でも?」
「いつか、みんなでソラをちゃんと、みてみたいっす!」
「…そうだな。」
「その日のソラはきっと綺麗だと思います。あ、チカゲさんもっすよ!一緒にみるの!」
「…あぁ、楽しみにしよう」

ーーーーーー

子ども部屋のクロゼットには秘密がある。
どの家にもあるけれど、条件が揃わないと早々にはうまれない。
クロゼットの中に眠るおもちゃのかみさま。
おもちゃを大切に、愛する心とおもちゃたちから愛されたとき、クロゼットに奇跡は起こる。
この家にきてもう数十年は経つだろうか。いや、数百か?この家には慈しみに溢れている。大事に、大切に愛されたおもちゃたちが役目を終えるころ、それは持ち主の心の成長だ。おもちゃとあそぶのは長くても15年。
その前に離れることも、おもちゃが寿命を迎えることもあるだろう。そんなおもちゃが役目を終えるころ、俺の仕事の始まりとなる。

“愛されたおもちゃたちの願いを叶えること”

それが俺に課せられた使命。
おもちゃが願いを叶えても、俺の役目は終わらない。次に来る新しい持ち主--この家に子どもが来る日まで、眠り続ける。
そしてまた、この家の少女も成長する時がくる。
皆の願いごとを叶える時だ。また、俺が眠り続ける時。
“本物”だって“新品”のようにだって、なんだって叶えられる。

「ねぇツヅル、君の願い事を教えて」




















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