わたしには今、好きな人がいます。
その人はいつも同じ時間の同じ車両、同じ位置にいるから素知らぬふりで隣に立つ。
満員電車の揺れにあわせ、肩や腕があたるだけでドキドキしてしまう。二、三度だけ彼からすみません、という声を聞いたけど、声すらかっこよくて返事もできなかった。
ホームに電車が滑り込んできて、ドアが開く前に彼がいることを確認する。
よかった。今日も彼はいた。
素知らぬふりで隣をキープする。なんだか今日はやけに眠そう。月曜日だからかな。わたしも休みの日は夜更かしをしてしまうから月曜日の朝が一番つらい。
カタン、カタン、ガタン、いつもの大きな揺れにあわせ体が彼の方へ傾いて少し服が触れた。それから肩も。こんなことが嬉しいなんて、もう一生告白なんてできないかもしれない!
ガタン、ガタン、カーブにそって体を預ける。もう少しで彼に触れそう、と思ったけど触れなかった。電車は降りる人に比べて乗る人の方が多い。ぎゅうぎゅうに詰め込まれる車内。なのに、その後の雑な停止ブレーキも、発車の揺れも。いつもはもっと触れるのに触れなかった。どころか、隣は彼じゃなかった。いや、彼はいた、いたけど、彼の持つつり革にもうひとつ腕が伸びていた。彼の肌と隣あうと少し浅黒い、がっしりとした手。そのままちら、と腕の先をみる。
白いシャツの腕の中に彼の金の髪が見えた。その金の髪に重なるように立つ黒い髪。思わず声がでそうになった。
ぎゅうぎゅうの車内で、ひとつのつり革を共有するだろうか?友だち同士でも。そして、前で抱えるように鞄をふたつもつ彼の腕ともう一本、ぎゅう、と後ろから抱きしめる腕が隙間からみえる。
頭にクエスチョンマークが飛び交ったわたしはもう一度彼の顔をみてしまった。それがいけなかった。
彼、ではなく黒髪の彼と目があってしまった。
にっ、と笑った彼はそのままわたしに見せつけるように腕の中の彼の耳にキスをする。
全てを悟ってしまった。
到着駅を告げるアナウンスで彼らも波に流され降りていった。ひとの波に揺さぶられながら、耳にキスをする光景が忘れられない。
わたしはきっと明日もまた、同じ車両、同じ位置に乗るだろう。




「エース!電車であんなことするなよ!」
「あんなことって?」
「耳にキスしただろ!?」
「それよりサボ、あんまぼんやりしてんなよ」
「話をきけ!」
「いや、今日俺がいなきゃもっとやばかったぞ!なんで普通に乗れてんだ!」
「普通に乗るだろ!話をそらすな!」
「じゃあ、サボの隣の女知ってるか?」
「女…?制服の?」
「そーだよ!まさか隣に立ついつもの人とか言わねぇよな?!明らかに狙ってる目だったしやけに体くっつけてきてたぞ!」
「満員電車だからだろ!」
「それにななめ前のドア前に立ってた親父!ずっとサボを舐めるように見てた!その隣の手すりにいた男もだ!お前の目は節穴か!」
「お前だろ!普通に電車に乗ってるひとだ!」
「〜〜っわかった!明日からおれも電車にする!」
「…へ?バイクは?」
「しょうがねぇだろ。たまたま、今日はバイクの調子が悪かったから一緒だったけど、これからどうなるかわかんねぇだろ」
「どうなるかって…」
「サボが痴漢にあうのが早いか遅いかだ!」
改札口でエースが叫び、一瞬時が止まったのはサボだけではなかった。


翌日から満員電車を利用してエースはサボを自分のものだと見せつけることにはまっていくのはもう少し先の話。




恋されているとまったく気づいてないサボと牽制エースとモブJK




























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