マリス・ステラ像の後ろ、ガラスの向こう側には海と空が溶け合うように広がっていた。
昔々、ここには墓があったという。朽ちてしまった墓の持ち主の名前を今はもう知る人はいない。それを哀れんだ人が教会を建てたのがここの始まりだった。
海の星の聖母が亡き者の魂たちを導いてくれるように、と祈りが込められている。



重厚な扉が開き、ヴェールを揺らして真っ赤な絨毯を滑るように歩く。ずっと隣で見てきた彼女はいつのまにか大人の美しい女性に変わっていた。
芯のある瞳が真っ直ぐに前だけを見つめているから、その先をちらりと見る。
マリス・ステラが海から反射する太陽の光を浴びて輝いていた。
歩んでくる彼女がこちらに視線を寄越す。きっと、マリス像をみたことも思ったこともバレバレだという瞳をしているけど気付かないふりをする。
『綺麗だ』
声に出さず唇だけ動かすと、しょうがないわね、といつもの少し眉を下げた顔をする。
『ありがとう』
彼女もまた、小さく唇だけ動かした。
二人で祭壇にあがり、誓いの宣言を行う。彼女の声は、手は、震えていただろうか。彼女の悪戯を許す顔も世話焼きな顔も笑顔も好きだった。今は彼女の横顔さえ見れない。
リン ゴーン リン ゴーン と大鐘が鳴り響いて、彼女と過ごした日々が走馬灯のように流れて不覚にも目頭が熱くなってしまう。

宣言を終え祝福を受けた二人にフラワーシャワーが舞い降りた。それぞれから祝いの言葉を受けながら少し瞳に涙をためて、オープンカーの前で花嫁が振り返った。ウエディングブーケがふわりととびたって、わぁ!と歓声があがると同時に手の中に落ちてきたブルー。
「次はサボくんだよ!」
手を振るコアラは満足そうに笑っていた。




「次はサボだって言われたらもうするしかないな」
「エース!」
「俺のこと忘れてただろ!式中ずっとコアラばっか!」
「そりゃそうだろう!今日の主役はコアラだ!」
「瞳に涙なんか溜めやがって!!あれか!?コアラの兄貴か父親になったつもりか!?」
「チビの頃からみてきたんだ!兄貴気分くらいなるだろ!」
「俺も構え!」
だだを捏ねるエースにまわりが囃し立てた。
「やっぱりもうお前らも結婚しちまえ!」
「結婚したらサボはおれたちと一緒に住むのか!?」
「そうだぞルフィ!サボがおまえの義兄ちゃんになるんだ!」
「ほんとか!?サボがにいちゃんに?!」
「ほら!ルフィだって大賛成だ!」
「今日はみんな揃ってるからな!」
「もう一度教会にもどるか!?」
「だれかコアラに連絡してやれ!すっとんでくるぞ!」
「よし!行くかサボ!」
エースに腕をひかれ、まわりにはぐいぐいと背中を押され階段をあがる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!その前におれらプロポーズもなにもない!!」
ぴた、と全員の動きが止まり、全視線がエースに注がれた。
お前まだなのか、このどさくさにまみれて早くしろ、サボは案外ロマンチストだぞ、肝心なことを思い出したか…それぞれの瞳から語られない声が聞こえたと後にエースは語る…
ただ、サボの心理だけが読み取れない。いつもならなんでもわかるのに。全員の前で言っていいのか?大事なことを?でもここにいるのは大切な仲間だ。だからこそみなにも証人になってもらいたい…この間0.5秒。

「サ「エース!結婚しよう!」

二段下のサボがじっと見つめてくる。じわじわ顔が真っ赤になってきてかわいい。かわいいけど…
「…オネガイシマス」
サボが言うの?えっこの流れエースが言うんじゃないの?その場にいた全員が思ったが口には出さず、代わりに歓声があがった。
ずっと二人をそばで見てきた仲間にもみくちゃにされながらエースがサボを抱きしめる。
二人の間でデルフィニウムの花が揺らいだ。



ぐい、とエースがサボの手を引いて教会に戻っていく。
重厚な扉の隙間から滑り込むと、真正面にマリス像と海と空が広がる。エースはずんずん進んでいく。
「エース?」
「なんでかわかんねぇけど、ずっとこの景色が懐かしかった。そりゃ、チビのころからここが遊び場だったけど、それよりもっと昔…来たことがある気がするんだ。誰かとここから海を見てた。その誰かがわかんねぇけど」
「おれも、この景色を知ってる。…でもここは、」
「サボ、海の男たちの聖母・マリス像が自分の息子を祝福しない訳ねぇだろい。」
マルコが祭壇にあがった。
「エース、誓いの言葉を」

頷いたエースがサボをちら、と見ると振り返った。仲間たちがじっとエースとサボを見つめる。
「生涯を通しサボを信じ、サボを愛することを誓います」
マルコの視線がサボに向かった。サボもまた、仲間たちに向かって宣言する。
「生涯を通しエースを信じ、愛することを誓います。」
「誓いのキスを」
エースがサボの手を引いて唇をよせる。
わぁ!と仲間たちが喜んで拍手がおこった。
「これでサボは本当の兄ちゃんになるんだな!」
ルフィが二人に向かって抱きついて、笑い声が教会中に響く。
仰ぎ見たマリス像は変わりなく微笑んでいた。













































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