むかしむかしこの島の東、海が見渡すことができる丘にふたつの墓が建てられた。やがてこの墓の名は読めなくなり、朽ちていくばかりで島民はこの墓の名を知らない。ただ、語られるむかし話によると名の知れた海賊の墓だったという。毎日のように島民が、あるいは船でやってきた男たちが花や酒を届けたらしい。それも数十年たつとその墓に参る者が減り、数百年たった今ではほぼだれもいない。この墓を訪れるのは遥か昔からの墓守の一族のみとなった。

サボはその墓守の一族に産まれた。
幼い頃から父に、または母に手を引かれ朽ちゆく墓に花をいけ酒を供えた。
「サボ。このお墓はね、わたしたちのご先祖様の兄弟とその恩人のお墓なのよ。」
「そのご先祖様のお墓は?」
「残念だけど、ここにはないの。きっと同じ場所にいたかったはずだけど」

遠い遠い先祖のことよりもこの墓に眠る人物が気になった。
今ではきくことのない“海賊”であった2人はどんな人物なのか毎日想像する。
きっとムキムキで、ひげがあって、胸毛もモジャモジャかもしれない。それから、大きな船にかっこいい海賊旗!ノートを取り出しては想像する海賊船や男の絵を描いた。本で見た帽子や剣も。財宝もいっぱいでみんなおそろいのしましまのシャツを着てるかも。船長は大きい方のお墓の人。きっと鋭い目をしてるはず。
すぐにノートは埋まった。海賊になるなら、と自分で考えた海賊旗も描いた。おそろいのしましまのシャツもいいけど、前に本で見た黒いコートもかっこいいかもしれない。

ある日ノートをもって墓にいった。
墓のまわりを掃除して、花を生けて酒を捧げるとノートを開く。
少しでも名前がみえないかと目を凝らしてみたけどだめだった。大人になったらお父さんが名前の持ち主を教えてくれるといったけど、すぐにだって知りたい。
「う〜ん…名前は大事だよなぁ。船長ならキャプテン…ん〜〜キャプテン・ビック…?」
名を馳せる海賊の名前だからきっとかっこいいに違いない。墓が大きいからキャプテン・ビック。
「ん〜〜もっとかっこいい名前…かっこいい名前…」
「エドワード・ニューゲート」
「エドワ…?」
「エドワード・ニューゲートだ」
「だれ!?」
まわりを見渡しても誰もいない。確かに聞こえたのに。墓のまわりも一周してみるけど誰もいなかった。
「空耳…?なはずはない!だれかいるのか!?」
「悪い悪い。まさか俺の声が聞こえるとは思わなかった」
後ろから聞こえた声に振り向く。行儀悪く墓に座る若い男。
「…だれ?」
「俺はエース。ポートガス・D・エース。この墓の持ち主だ」
「エース…」
「それにしてもサボにそっくりだ!いままでのサボより!すげぇ!先祖返りってやつか!」
懐かしそうに目を細めながらエース、という男は笑う。
「さ、サボはおれだ!」
「あぁ、わかってる。今のサボはおまえだけだ」
「エースは、おばけなのか?」
「ん?まぁそういうことになるな。ずっと昔からここにいる」
「すごい!話せてる!じゃあ、おれのご先祖さまと兄弟だっていうのも本当?」
「本当の兄弟じゃねぇけど、本当の兄弟以上だ。俺が死んでからサボがずっとここに来てたのは知ってる。それが、今じゃあ墓守の一族だもんな。サボにはまいった。」
「こっちの大きいお墓の人は?」
「エドワード・ニューゲート。白ひげは偉大な海賊だった。」
「エースもやっぱり海賊なのか?エドワード・ニューゲートはおばけにはならないの?」
「もちろん。俺も海賊だ。白ひげはもういねぇよ。この人にはたくさんの息子がいたからみんなの様子を見に行ったんだ。」
「エースは、ずっとこのお墓にいるのか?白ひげみたいに誰かのところにいったり、成仏しないのか?」
「俺にはサボ以外にもうひとり弟がいたんだ。弟は俺がいなくても大丈夫だったが…サボが心配で気づいたら数百年たってた」
「何百年も…さみしかっただろ?だってもうこのお墓にくるのはおれたちだけだ」
「サボの一族だろ?それなら歓迎、むしろ感謝だな。結局…俺たちはすれ違ったままだったけど、生きているサボをみれたから。」
「じゃあこの先もひとりでここにいるのか?」
「ひとりじゃねぇ。サボがここにくるだろ?そうだ!紛らわしいからお前はチビサボって呼ぼう」
「あんまりかっこよくない」
「まぁそういうな。大きくなったら考えてやる」
「みんな大きくなったら、っていうんだ」
「その方がいいときもあるんだ。」
「ふーん。なぁエース、エースが海賊だったころの話きかせて」
「あぁ。いいぜ」

それからエースの話を陽が沈むまできいた。義兄弟で森を駆け抜けたり、たたかったり、先祖のサボの事件、エースも海に出た話、白ひげに出会った話……数時間では聞き足りないくらいだった。
「エース、明日もいる?」
「俺は毎日ここにいる」
「じゃあ、また明日、話の続ききかせて」
「あぁ。」

エースの顔にゆっくりと夜の色が透けていく。あぁ、やっぱりエースはおばけなんだと改めて気づいた。でも全然怖くない。海賊なのに。
手を振って家に帰る。明日はお父さんのとびきりのお酒をもっていってあげよう。





翌朝一番に飛び起きて墓へと向かう。
「エース!ちゃんといるかー!?」
「よォ!チビサボ!早いな」
「だって、話の続きがききたくて!」
「どこまで話したかな」
「エースが砂漠の町にいったとこ!」
「あぁ、アラバスタだな」





それから数日、数年と毎日エースにあった。
エースから聞く話はサボの中で蓄積され、聞いていないはずの“サボ“の記憶も流れこんできた。サボがずっとエースに抱いていた思い。そして自分がこの世に生まれた理由。

「エース」
「来たかチビサボ」
「もうおれも16だからチビサボはないと思うぞ」
「…それもそうだな」
「まだ大人じゃねぇけど」
「あぁ。俺からみたらいつまでもチビだけどな」
「エースは、サボが心配だったんだろ?」
「…死んだと思った兄弟に自分の墓の前で泣かれたらそりゃ心配だろ」
「おれは今までの“サボ“の中でも一番似てた?」
「…あぁ。今まで“サボ”と名付けられた奴はたくさんいた。けど、一番魂が近いのはおまえだ」
「だから、おれにはエースがみえたのかな」
「そうかもな」
「おれは執着だと思うよ」
「ん?」
「“サボ”がエースに会いたがって、執着で今のおれに転生したんだ。でなきゃ、」
「サボ?」
「でなきゃ、こんなにエースが好きで好きで辛くなるはずない…おれ、エースが好きだよ」
ゆっくりとエースの手に手を重ねようとする。けれどいつまでたっても触れない。
「サボ、」
「エース、おれ、エースに触りたいのに…!」
涙でぼやけてエースの姿が揺れる。
「…ばかだなサボは。おまえが俺のこと好きなことくらい、ずっと昔から知ってる。俺はずっとここでおまえを見てたんだぜ。」
「だったらエースも、早く成仏して転生しろよ…!」
「…転生しても出会える保証なんてないだろ。だから俺はここでずっとサボの末裔まで見守るつもりだったんだ」
「見守るだけかよ…おれはやだ。エースに触りたいのに。もっとずっと一緒にいたいのに」
「俺だってサボに触れたい」
「だったら…!」
「あんまり虐めるなよサボ。正直転生してサボのこと忘れるのが怖いんだ」
「…っ!」
「俺も随分弱くなっちまった」
「大丈夫だエース。言っただろ、おれは先祖の代から執着が強いんだ。きっとエースをみつけるから。」
「…言ったな?絶対だぞ」
「あぁ。」
「じゃあ、少しだけお別れだ」
「少しだけ、な。すぐ来いよ」
「せっかちだな」
「お互い待ち草臥れただろ」
エースが手を伸ばして頬に触れる気配がする。ゆっくりと瞬きをして目を開けたときにはもうエースの姿はなく、太陽の光を受けて輝く海だけが広がっていた。






















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