裏十字が目に入り、逃げるように黒いカソックのボタンに手をかける。ひとつ外すと中からシワひとつないローマンカラーの白が見えた。カソックのボタンを全て外している時間も余裕もない。なんでこんなにボタンが多いんだこの服は。へそ上あたりまで下ろすとローマンカラーの裾をひっぱりだしてそこから直接肌を撫でる。片方の手で髪を梳いて額から順に口づけていく。ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てると笑う口を塞いだ。
中途半端に腰周りや脚ににひっかかったカソックが暑い。狭い車のシートの上というのも悪い。しかし、これはこれで楽しめる。
「んっ、エース、ごめ…ん、っ、んあ、」
じゅるじゅる、ふう、ふう、耳元でサボの声を聞きながらさらに下から奥へと突くと、あぁ、と肩からサボの口が離れた。
ぎゅうと頭を抱き抱えられ、あ、あっ、とすでに快楽だけを追うサボの腰を掴む。車が腰にあわせて揺らぐ。狭い車内に響くサボの声といやらしい水音。今ここが天国に一番近いかもしれない。




うわ、と声がして目をあける。開け放たれた扉の外ではサボがカソックを広げていた。ドロドロしわしわになった自分のカソックをみて苦い顔をしていたが、少しずらしただけだったズボンも大変なことになっていることを本人は気づいているだろうか、と思いながら自分の下半身にも目をやった。確かにうわ、と言いたいくらい酷い。おまけに肩は固まった血がカピカピになっている。
「サボ、風呂に入ろうぜ」
声をかけると振り向いたサボがエースの惨状をみて顔を歪ませた。





朝の惨状とは違うパリッとした新しいカソックに袖を通す。サボも汚れひとつないローマンカラーの上からカソックに腕を通す。基本暑がりな俺はカソックの下にはなにも着ない、が、見つかったらうるさいじじい共がいるから付け襟だけつける。
ぴたり、とサイズがあったカソックはサボの細い腰をさらに際立たせるな、なんて繁々とみていたらサボと目があった。
「エースのえっち」
さっと胸元を隠したサボにいらっとした。
「そっちじゃねぇよ!お前が隠すのはこっち!」
と細い腰を掴む。
「いやどうやって隠すんだよ!」
「なんかあるだろ!ほら、腰周りにタオル巻くとか!いっそでかいカソック着るとか!」
「動きにくいだけだろ!そういうエースこそ!」
「いってぇ!!」
ぎゅう、とカソックの上から掴まれた雄っぱい。
「シャツでいいから着ろって言ってるだろ!」
さらにピンポイントに乳首を捻られた。
「いでででで!!なんでピンポイントにわかんだよ!」
二人で攻防をしていると、コンコン、と部屋がノックされる。はーい、とサボが返事すると最後にぎゅう、と乳首に爪を立てられて涙が出た。

ひりひりする乳首をさすっているとバキン、と大きな音とエース!とサボの声。すぐに扉に向かうと大斧が扉にめり込んでいた。サボはしゃがんでなんとか攻撃を避けたらしい。
「そのまましゃがんどけ!」
ナイフを投げるとそのままグールの額に突き刺さり、後ろに引いた瞬間サボがグールの首を切り落とした。
「エース!荷物よろしく!」
サボは死んだグールを部屋へと引きずり込んでいる。たとえグールといっても一見は人に近いからこそ、それをいつまでも廊下に放置はできない。元々少ない荷物を鞄に押し詰めて窓を開けた。
「サボ!行くぞ!」
言うなや窓の外に飛び降りてすぐに車の元へ。エンジンをかけるとサボも飛び乗ってきた。
「ったくあいつらの嗅覚どうなってんだ!?」
「嗅覚だけじゃないぽいぞ」
「…裏があるって?」
「これ」
ぺらりと見せられたのはもはや見慣れた陣。
「差し金ってことか」
「一匹って…おれたちも軽くみられたもんだな」
「もしくは、確かめるためか…どのみちあそこはもう使えねぇな」
「風呂が広くて気に入ってたのに」
はぁ、とため息を吐いたサボは分厚い手帳を開くとその中の同じ紙をとりだす。様々な場所でこの陣をみたが、こうして自分たちの住処にまで来たのは初めてだった。
「これは…早くコアラのとこに行った方がよさそうだな」
「寄り道しないで先に行けばよかったか」
「あんなぐちゃぐちゃでいったら殴られるだけじゃすまないだろ」
「確かに」





コアラの家は森の奥深くにある。まさに魔女の住む家と言っても過言ではない。むしろ「魔女ってだいたい森の奥深くって相場が決まってるの!」と断言していた。それだけ人に近い場に住むのはリスクが大きいということにも繋がる。
住処から2日車を走らせた夜。明日の夕方には着くだろう。田舎道にモーテルはない。交代で車を運転しながら先を進む。
今はサボが運転する番だった。エースは助手席のシートを目一杯倒して眠っている。がっちりとした体型には少し狭そうだった。
緩めたカソックの首元からガーゼが見えて、自分がつけた傷だというのに忌々しくなりハンドルを強く握った。

初めて、その行為を行ったのもこうして交代で運転していた夜だった。ぞわり、と背筋に嫌な気配が走ってハンドルが揺れる。
なぜか、無性に血が吸いたくてたまらくなった。あの鉄臭い赤い血が飲みたい。まず目に入ったのは自分の手だった。車を停めて指先を歯にあてると、ぷつ、と小さな傷口ができた。ちゅうちゅうと血が少ないとでもいうように小さな傷口を吸い上げる。これでは駄目だ。もっとほしい。次に手首に歯を立てた。滴った血を舐めあげ、じゅる、じゅる、と傷口から血を吸う。
ん、と鼻から吐息がもれ血に集中してしまう。ん、ん、じゅる、じゅる、指の先まで血が巡らず変色していくのにも気に留めずじゅるる、と吸い上げる。はぁ、と一瞬口を離した瞬間手が伸びてきて傷口を抑えられた。
「なに、やってんだ…」
とくとくと流れていく血がもったいない。押さえられた手ごと血を舐めとる。ぺろぺろ、舌を使って溢れ出る血を舐める。
「サボ!」
がん、と頬を殴られてはっとした。
「エース…!?」
「お前、なにやってんだよ」
「なにって、」
エースに握られた手が熱い。ぽたぽたとカソックに染みていく赤い血を見て驚愕した。
「エース!手、手どうしんだ!?血が…」
「俺のじゃねぇ」
そっとエースが離した手の下には自分の、皮膚をぐちゃぐちゃに噛み切られた手首があった。
「な、んで…これ」
傷口から溢れ出る血が怖い。ガクガクと震えだした手首をエースの手が止血するように握る。
「話はあとだ。落ちつけ」
エースが止血して運転を変わる。もうすぐで家だった。無言で暗い道を帰る。
鏡越しに写った自分の口周りは血だらけだった。

エースはサボをベッドに座らすと濡れたタオルを手渡した。受け取ったことを確認するとすでに真っ赤に染まった止血していたタオルを外していく。
「染みるぞ」
「く…っ、ぅ…」
薬を塗って上から包帯を巻いていく。下のガーゼにすでに血が染みていたが、大分止血されているようだった。
包帯が巻かれている間、じっと手元を見ていた。全て巻き終わるとエースが顔をあげる。はぁ、とついたため息に身体が跳ねた。自分でもなにが起こったのかわからない恐怖に涙が溢れそうになる。唇を噛み締めたとき、ぐい、とエースに顔を上げられた。濡れたタオルを手から奪うとぐいぐいと遠慮なしに口周りを拭っていく。エースの瞳は、いつものエースのものだった。それが暖かくてまた涙が膜を張る。
「ったく…どうしたんだよ」
「ぅ…エース…おれ、魔物だったのかな…」
ぐいぐいとさらに力強く擦られる。
「…いたい」
「お前が…魔物な訳ねぇだろ。教会だってお前は純血って判定しただろ」
「じゃあ、なんで、自分の血なんて」
「調べてやるからもう寝ろ。」
そのままエースにベッドに倒され、ブランケットを首までかけられる。
「大丈夫だから。おやすみ」
エースの声がひどく優しかった。



それからいろんなツテで調べても何もわからないままだった。今でも調査をしてくれている仲間はいるが、吸血行動が収まるわけではない。
両手首は噛み跡だらけになったし、すれ違う人の、皮膚の下の血を思ってしまうほどだった。なんとか抑えているものの、いつか、人を手にかけてしまうかもしれない。それが怖い。いつか、エースの血も、
人がだめならと退治した魔物の血を舐めた日のことだった。身体が拒否反応を起こして倒れたことで、エースに吸血行動がばれた。
「なんで言わなかった」
「………」
「いや、俺も気付いてやれなかったんだ。ごめん」
「エースが謝ることじゃないだろ!…おれ、教会に一旦戻る」
「は?」
「教会ならなにかわかるかもしれないだろ」
「モルモットになるって言ってるようなもんだぞ」
「それでも!人の血を吸うよりはましだろ」
「…わかった!サボ!俺の血をやる!」
「へ?」
「教会に行くのはなしだ!その代わり俺の血をやる」
「エース、何言ってるかわかってんのか?血だぞ?血を飲むんだぞ?怖くないのか…?」
「サボだから怖くねぇよ。それにお前より俺の方が血が多い気がするし!俺は、血を吸われるよりサボと離れることの方が怖い」
「…っエースは、馬鹿すぎる!」
「はぁ!?なに言ってんだ!ここはありがとうエース!って抱きつくとこだろ!なんだ馬鹿って!!」
ぎゅう、とエースの首に抱きつく。
「エースの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿大馬鹿野郎!!」
「…そうだ。俺は馬鹿野郎だ。」
エースから回された手はやはり暖かかった。




「では、いただきます」
「どうぞ」
「痛かったら言えよ」
「止めれるのか?」
「…さぁ?」
目の前に差し出されたエースの手首に噛み付く。ブツリ、と皮膚が破れる音がして、ぬるい血が舌にのる。傷口を舐めては吸う。少しでもエースが痛くないように。ぺろぺろ、ちゅくちゅくと吸う血が甘くて自分の血よりもおいしいことがわかった。異様に身体が熱くて、エースの腕に腕を絡ませて吸いあげる。ん、ん、と息をあげながら腕を伝う血も舐め上げていくとエースと目があった。いつの間にかエースを押し倒してまで吸っていたらしいが、まだやめたくない。エースが顔を真っ赤にしながら見つめてくるから、視線を逸らさないままエースの胸の上でじゅる、じゅる、と吸う。さらに甘くなった気がするのと、エースの固いものがあたっていることに気づいた。
興奮している。エースが、おれに血を吸われて。
すごく嬉しくて、布越しのエースの固いものに手を這わせた。びくり、と跳ねたエースの目はまん丸で、腕から口を離すと引いた糸もそのままに下にずれて固いものを口に含んだ。布がぎゅうぎゅうに押しやられていたから中からだしてやった。それを口いっぱいに頬ばる。
「サッ、」
「らいほーふ」
歯を立てないように優しく、優しく。モゴモゴと口内の柔らかい場所に押し当ててやりながら、入りきらなかった分は手で擦ってやる。
ぅあ、とエースが気持ちよさそうな声を出すから、ますますやる気になった。
じゅるじゅると頭を上下するたび、腰がびくんびくんと跳ねるのがかわいい。
エースの手が伸びてきて、ぎゅう、と頭を押し付けられた。口内のものが大きくなって、熱いものが喉の奥に流れ込んできた。
「ん、っ、ぅく、」
「わりぃ、さぼ、」
はっ、はっ、と息を整えるエースが頭を撫でてくるから、残りのものもじゅ、と吸ってあげた。
飲み込めなかった分は口からもれてしまったけど、これでエースの体液はほとんど味わったかもしれない。最後にちゅ、とキスをするとむくりと起き上がってきて思わずわらった。
エースはバツが悪そうな顔をしている。
「ね、エース舐めて」
エースの口元に指を持っていく。エースの大きな手がおれの手を握って、口内に誘いこんでいく。チロ、と舐められた指先だけで十分な破壊力があった。引きそうになった手をエースががっしりと掴んでおれを見ながら舐める。
チロチロと見える肉厚な赤い舌がおいしそう。指を増やしながら擬似的なフェラチオのようなそれに腰が揺れた。
エースの唾液をたっぷりつけた指を布の隙間からお尻のさらに奥へ。そこに指を這わす。使うのは初めてだから少し心配はあるがなんとかなりそうだ。
張り詰めていた前が落ちついたから片方の手で前を擦る。今、エースの上に跨って自分のものをいじっているということに興奮する。
「ん、ん、」
漏れる息すらエースがみている。
ちゅくちゅくとズボンの中から音がして、大変なことになっているだろうな、と他人ごとのようにも思っていたら、いきなり冷気がさした。
「なに、」
「見えねぇから」
ズボンとパンツを一気に下げられ、それは膝、エースのお腹の上で止まっていた。
「いい眺めだなサボ」
「あっ、エースッ、」
後ろにエースの指も加わった。サボの指より一回り大きな指が、サボの3本の指とは違う動きをして掻き回す。
「あぁ、んっ、んっ、そこ、」
ぐりぐりと強い力で押されサボも吐き出した。
エースの顔までとんだそれをエースが指で掬って舐めとるとサボの腕をひき下に組み倒す。引っかかっていたズボンとパンツを引き抜かれると、エースの熱いものがひたりとあてられた。
「サボ、本当にいいのか?」
「エース、エースの全部がほしい」
ぐん、と押し込まれたそれに背中がしなる。
息が上手くできないほどの熱量に身体が小さく跳ね続けた。
「サボっ、息、しろよ!」
ゆっくりとでていくのにあわせはくはくと息をする。そうしてまたゆっくり入ってきた熱量を受け止めながら、目の前のエースへと手をのばす。
気づいたエースがサボの髪をかきあげてキスをした。




「サボ、顔が赤いぞ」
「えっ!?エース!?うわわわわ」
びっくりして思わずハンドルが揺れて左右に蛇行する。
「なんだ〜?Hな考えごとか?」
「ちがう!」
初めて吸血行動をとった日を思い出していたのに、いつのまにかエースと身体をつなげた日を思い出していた。
「サボの身体は正直だから」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ、今度こそ車は急停車した。















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