学パロ/担任清→←生徒ヒロ/無駄に長い/ぶった切り
校庭で騒ぐ同級生達を、窓側の自分の席から眺めていた。
ひとり、ふたり、僅かに小さくなっていく騒がしさに目を細め、廊下側に耳を向ける。
カツン
誰もいないはずの廊下に響く足音を、昔から待っていたように思うくらい胸が弾む様な気がする。
待ち人がここに来る確証などまったくないのに。
カツン、カツン、近づいているのか遠のいているのか。足音が待ちきれなくて音を立てて椅子から立ち上がった。
綺麗に並んだ机の波を掻き分けて、扉に手を伸ばす。
ガラリ、勢いに任せて開いた先にはもう背中しか映らない。
違う…
確証はないとわかっていたはずなのに、違ったらそれはそれでやはり寂しい。
落胆のため息が自然と出そうになる。
「どうした、そんなに急いで」
静かな廊下。追いかけた足跡の主はもう見えない。後ろから、凛と楽しそうに笑う男は誰かなど
「、べつに」
わかりきった相手へくるりと身体を向けた。
「そうか?」
笑いながら、男は教室への扉に手をかけるのを、
「外、行かなくていいのか?今日はこれからクラスで食べに行くんじゃなかったか?」
背中を追うように教室へと続いた。
「それは夜。もう寄せ書きも写真も撮ったし。今日で最後だからもう少し思い出に浸かってようと思って」
「お前が?」
「俺が」
黒板に書かれた『卒業おめでとう』の文字と、まわりの落書きや寄せ書きを見つめながら笑う
古い黒板に小さな教卓。俺が乱してしまった綺麗にならんでいたはずの机と椅子にも、小さな傷や落書きがある。もちろん俺の机にも。今まで自分のものだった物は、明日から別の誰かの物になる。
最低限綺麗にされても刻まれた傷は消えなくて、これから使う誰かが傷を発見してはまた新しい傷を上から作るだろう。これまで自分の物として使ってきた俺たちのように。
「先生は寂しい?」
「寂しいかな…でもやっとお前達が卒業で肩の荷がおりた」
「はは、お疲れさま」
「他人事か」
「感謝してます」
頭を下げると、先生はまた笑った。
明日から、学校に来ることはない。
自分の場所はここではなくなる。
窓側の後ろから二番目
なにかと都合の良かった自分の席に座る。
校庭には、今だ卒業を粘る女子が数グループ。
「先生
最後に、出席とって」
先生は黒板から目を離しただろうか?
校庭のすみで、最期に告白でもしているのだろう二人組を見つけた。
自分も、勇気があればできたのに。そもそも勇気以前に超えられない壁ばかりだけど。
ぼぅ、とその二人をみていた。おそらく成功しただろうそれが羨ましい。
おめでとう。心の中で呟いた。
最後に、名前を呼んでほしい人がいた
「木戸浩志」
最後に、その口から紡がれる名前だけ聞ければ良いと思った
意識が外の二人に向いていたからか、近づいていたこともわからなかった。
机を挟んだ向かいに、先生は立っている。
よほど、俺は間抜けな顔でもしただろか。少し眉を下げて、もう一度呼ばれた。
「木戸浩志」
「…ヒロ」
形の良い唇から、ゆっくりと紡がれる名前に目の前が揺らぐ気がした。
「卒業、おめでとう」
言葉と共に唇が落とされる
「好きなんだ。
ずっと待ってた。この日を、俺は、ずっと」
「せん、せ…」
壁ばかりだと思った。勇気を出す勇気さえ出せなかった。
「ヒロ、もう先生じゃないんだから、」
柔らかな日差しの中、困った様に笑うその顔も綺麗で、またゆっくりと唇が落ちてくる。
俺はこの瞬間世界で一番幸せだと思った。