短い/会話文/ジャンル雑多/不定期





「エース!!」

随分ききなれた声が耳に届く前に目の前の男を殴り倒す。ずしゃ、と崩れ落ちた男には見向きもせずにまた黒い大波の中へ。

作法もなにもあったもんじゃない。飛びついては殴り、殴られれば蹴り上げる。

誰のものかもわからない血を拭いながら声のした方へ目を移した。

黒いなかでひとつの白が眩しくうつる。あっちもちょうどひとりを殴り倒したところで目があった。それだけでわかる。今日もまた俺たちの勝ちだ。

ゆらりと次から次へと湧いてでてくる波ににやりと笑って飛び込んだ。




殴って、殴って、蹴り上げては殴って。はぁ、と息を整えたときにはまわりはうめき声だけだった。やっとおわったか、あっちは、と再度みたとき血にまみれた白が浮いていた。

自分たちよりも体格のいい男がシャツを捻り上げていて、つま先すら地についていない。

カッと目の前が赤くなり、その男目掛けて駆け出した。


「サボ!!」

巨体の男の腕目掛けて殴りかかろうとした時、サボがエースに向かって投げられた。二人で飛ばされガシャン!とフェンスが派手な音を立てる。

ぐ、とくぐもった声が腹の辺りからきこえて

サボ、とかけようとしたが声はでなかった。身体の中がみしりと嫌な音をたてて思わず目を閉じるとふいに身体が軽くなる。それからドサ、となにかが落ちる音がして、いうことをきかない身体に悪態をつきながら目を開けた。


「お前、ドラゴンの参謀だろう?まぁ、もっぱら処理係って噂だけどな」


近くにいると思ったサボは巨体の男よりさらに向こうに横たわっていた。落ちた音はサボが投げられた音だと気付き、駆け寄ろうと身体を起こすが足元からすぐに崩れた。


「ドラゴンとお前には大分世話になったからな。礼でもさせてくれよ。…そうだなぁ」

「…っあ、」

ぐぃ、と金の髪を持ち上げて男は舌舐めずりをする。随分下品なにやけた笑い方だった。

「…っめ、ろ!」

言葉にできたかもわからない声がでて、なんとか痛みを堪えながら立ち上がろうとした。


「ドラゴンがいなくなって随分寂しくなったんじゃないか?」

さらに後ろに髪を引かれサボの白い喉が晒される。

「それともあの男に乗り換えたか?」

ぱっ、と髪を離したとたんサボの頭が嫌な音を立てて地に落ちた。

「あんな男より満足させてやろうじゃねぇか」

男の手が下半身に伸びた瞬間頭の中で何かが切れる音がした。



現パロ





ゆらりと炎が揺れて、また誰かが死んだことを告げた。


炎が揺れて道を記す。それは続く者の灯火だった。死者を導く灯として黒髪の青年が棺の隣に立った。身体から離れて迷子のようにただよう光に問いかける。
「悔いはないか?」
少しして赤い炎と淡い光が揺らめいて森へと消えていった。この先は死者の国だ。

「エース!!」
「げっマルコ!」
「魂をアルゲオの湖につけたろい!」
「つけてねぇよ!あいつが勝手にいったんだ!」
「おまえは門までちゃんと連れてこれねぇのか!かちんこちんだよい!」
「俺だって一応忠告はしたぜ!それでも行ったんだ。バクにでも喰わせればいいだろ」
「エース…おまえの仕事は?」
「…死者の魂を森の奥の門まで連れてく」
「それを忘れるんじゃねぇよい」

マルコはもう一度念を押すと消えてしまった。エースはため息を吐く暇もなく次の魂を迎えにいく。
ゆらゆら、ゆらゆら、炎は死者を告げた。
森を出るまでに何人が死んだだろう。
まとめて連れてくか、と一番近い棺に向かうことにした時、一層大きく炎が揺れた。




死者の森から東へ少し。緑豊かな森で狼男が死んだ。
金の毛並みが美しい男だった。


ハロウィン序章にするつもりだった





「サボ…話がある」
ルフィが寝静まるのを見計らってエースが真剣な顔で話を持ちだした。
思いあたる節がないわけではない。ごくり、と生唾を飲み込んでエースの正面に正座する。



「…ほんきか?」
「あぁ。ずっと考えてた。」
「もう少し考えてみてくれ」
「いや、考えた結果だ」
「かわらないのか…?」
「俺の決意は固い。サボも心を決めてくれ!」
「そんな、急に決めろだなんて…」
「サボ…俺たちだけじゃなくルフィのためでもあるんだ!」
「ルフィの…」
「そうだ。ルフィのためだ」
「…わかった。ルフィのためだ」
「よっしゃ!」

ガッツポーズを決めたエースをみて、サボは眉を下げる。不安が消え去ったわけではない。ただ、これはルフィの…それからおれたちの大きな一歩となる。


翌々日のことである。家中にルフィの歓喜の叫びが響いた。
目の前には2人の兄。の手にあるルフィのお気に入りのトナカイの顔型のリュック。
ルフィの目の前で、中身が詰め込まれた。
「ハンカチ、タオル、ばんそうこうに水筒、あと腹が減った時用におやつ。それから迷子札に防犯ベル…それから…」
「エース、これも」
「おぅ!これは…こっちに入れとくか」
「ルフィ、こっちのおやつは非常用だからな。最後までおいとけよ」
「よし!なんとか詰めれた!」
「げぇ!チョッパーの顔がでこぼこだ!」
「しょうがねぇよ。」
「おつかいって、こんなに持っていかなきゃだめか?」
「あった方がいいにきまってる」
「ルフィ、この財布の中にお金が入ってるから、落とすなよ」
テーマパークで買ってもらった骨つき肉型のコインケースを首からかけてもらう。
ルフィの瞳がキラリと光った。

「いいか?わからなくなったらなるべく優しそうな人にきくんだ」
「食い物につられてついていくなよ」
「わかってる!じゃあ、おれもういくぞ!」
「ルフィ!車に気をつけろ!」
「拾い食いもだめだぞ!」
「だいじょうぶ!いってくる!」

麦わら帽子をかぶるとわくわくした笑顔で玄関をでていった弟を見送るとすぐに2人も家を出た。
2人は帽子にサングラスで変装し、かわいい弟のあとをつけていく。
変質者にあわないか、迷わないか、怪我をしないか。不安は積もる。なんせ、まだ5歳だ…
そんな2人を気にせず、ルフィはずんずん歩いていく。

「エース…ルフィがおつかいしてる…」
「大きくなったな、ルフィ」

まだ、初めてのおつかいは終わっていない。が、ひとりで道を歩くルフィに感動する2人だった。


現パロ兄弟ASL





昇ってくる朝日が眩しい。
「サボ!早くしろよ!」
エースが目の前を駆ける。背中の仕留めたワニもエースと同じように揺れた。
二人でワニを担いでいるから、エースが駆けると引っ張られて駆け足になる。
「今日はルフィの誕生日だからな!あいつが起きる前に帰らないと!」
いつもよりわくわくそわそわしているエースをみて、足に力を込めて走った。



「なぁサボ、きいてるか?」
隣にはエースがいた。
つないだ手をぶらぶらさせているのを握り返して、おれも強めに揺らしてやる。
(今のはなんだったんだろう。夢みたいな。)
「…うん」
「昼飯なににする?」
「ん〜〜チャーハン!肉いっぱい入ったやつ!」
「おっチャーハン!いいな、決まり!」
「じゃあ家まで競争!」
「あっ!こらサボ!ずりぃぞ!!俺お前のランドセルまで持ってんのに!」
「ハンデに決まってるだろー!」
夢みたいなものはすぐに忘れた。
足の長いエースはすぐに追いついて、おれの横を駆け抜ける。
「へへっ俺に勝とうなんて100年早い!」
おれの横を駆け抜けるなんていつものことなのに、なんで懐かしくてさみしいんだろう。



前世の記憶が顔をだす





フードを目深に被りなおして先を急ぐ。
あまりひとりで外に出歩くことはないけど、今日は仕方ない。
この辺りは物騒だときいたから、なるべく早く通り抜けなければ。
ランタンを揺らしながら小走りになる。
もう少しいけば明るい道にでれるだろう、と
思ったのも束の間。
「ぅ、わ!」
なにかに躓いてランタンを落としてしまった。
ランタンの灯りがゆれて消えると闇が迫る。
はぁ、今日はついてない。
躓いたものをみてもこの暗闇じゃわかることもなく。また大きなため息を吐いた。
「おい、幸せが逃げるぞ」
突然かかった声に思わず、ひっと声がでた。
「あぁ、悪い悪い。驚かそうとしたわけじゃないんだ。ただ、ため息ばっかついてるから」
「…いや、ランタンを落としたからつい」
「あ〜…そりゃついてねぇな。よし!俺が通りまでついてってやる。その代わり、有金全部よこしな」
「やっぱりそうなるのか」
「命までは取らねぇんだ。安いもんさ。それに、道案内はなんといってもこの俺だ!安心していい」
「…しょうがないか」
「まいどあり!」
金なんてほとんど持ってないけど、命がとられないならまぁいいか。
「じゃ、早速」
「えっ」
「この暗さじゃ俺もほとんど見えねぇんだろ?こうするしかない」
男に突然手を握られ、引っ張られる。
「確かにほとんど見えないけどさ、」
「えっなに、恥ずかしいとか?」
「うっ」
「手繋いだだけで恥ずかしいとかお前童貞だろ」
「そっ!れは関係ないだろ!そもそも、そんな簡単に手は繋がないだろ!」
気配だけで、男がにやにやしているくらいわかる。
くそっと悪態をつきながらもついていくしかなかった。
しばらく、男が右に左にと“なにか”を避けながら歩くのに合わせて歩く。
「なぁ、あんたもランタン持ってないけど、見えてるのか?」
「あぁ、俺はもう慣れてるから全部見えてる」
「慣れるものなのか」
「慣れるもんさ。ほら、通りだ」
狭い通路の向こうに明るい灯りが滲んでいた。
ここまでくれば、とホッとする。
片手でマントの中を探り、財布を取り出す。
「これ、約束の」
「あぁ、あれは冗談。でも礼はもらっとくか」
ぐい、と手を引き顔になにかが近付く。
ふ、と唇に何かがあたった。と思ったらトン、と肩を押される。
立ち位置が逆になり、男の顔が滲んだ光に照らされた。
黒い髪に黒い瞳。口元がにやりと笑う。
「お前、もうココは通るな。次は連れてかれるぞ。ほら、早く行け。」
「〜〜っ!キスすることないだろ!」
「だってお前、おいしそうなんだもん。俺に会いたくなっても絶対来るなよ!」
「来ねえよ!!」
「ほら!走った走った!家は覚えてるか?ちゃんと帰るんだぞ!」
追い出されるように通りへの小道を走った。少しの距離だったはずなのに随分走った気がする。
明るさが倍になり、目を細めながら通りへとでた。
後ろを振り返っても、そこは暗闇ばかり。
なんだか懐かしいような男だったように思う。サボはゆっくりと家へ歩き出した。



守護天使エースとサボ





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