短い/会話文/ジャンル雑多/不定期





寮の中庭に揺れるシーツからみえた足が二本。見知った足が二本、倒れている。
「つ、つづる…!?おい!」
揺れるいくつものシーツを掻き分けていくと気持ち良さ気に大の字になった人。
「…まぎらわしすぎ」
はぁ、と隣に腰を下ろした。たしかに今日は気持ちのいい風が吹く昼寝日和だ。
さわさわと木が揺れて、木漏れ日が眠りを誘う。
綴の寝顔は穏やかで、こちらまで眠くなってきた。
影が落ちる前髪をさらりと撫でる。ふわふわと柔らかい髪質が好きだ。
自然と、規則正しいそこに唇を寄せてしまう。触れるか触れないか、絶妙なところで思わず隣にどさりと倒れた。
(嗚呼、神様!俺に勇気を装備してほしかった!)





『…千の時を超えてこの恨み晴らそうぞ…』


「っしゃ!ゲームクリア!やっぱマーリン強いな。」
エンディングにはいる画面をみながらコントローラを置く。
有休を十分活用してクリアできたし、エンディングも申し分ない。タイトルトップに戻ったのを確認して電源を切って布団に入った。
これでゆっくり眠れる。わずかな興奮をもちつつ、瞼は自然と閉じていく。起きたら隠しルートまわるかな…5:31になったスマホ片手に沈んでいった。





身体に僅かな重みを感じて意識が覚醒する。身じろぎをしようにも、下半身がまったく動かない。もぞもぞと布団から顔をだしたとき――――-
「やぁ。やっとお目覚めかな?妖精のいとし子よ」
「…は?」
「…おや?僕の知るランスロットより間抜けた顔をしてるね」
「…いや、」
「なんだ、声もでないか。くくっ。キミに乗り上げるなんて1000年ぶりか?…随分待ちわびたな。」
「っん、」
すり、と腰を擦り付けられたところがぴくりと反応してしまう。
「ちょ、っと!」



「…ランスロット?」
「は…?え?マーリン?は?」
「ランスロットにしては随分腑抜けた顔だな」





『今日の星占い!一番ツイてないのは牡羊座のあなた!やること全部ツイてない残念なあなたのラッキーアイテムは…』

朝ごはん中に流れるテレビからの正座占い。今日は最下位だった。特に気にしたことないけど、ほんとについてないことだらけでラッキーアイテムにも頼りたくなる。ところでラッキーアイテムなんだったっけ…
なんてぼんやり考えてたらぽつり、頬にあたるものが。
「…うそだろおい…」
ぽつぽつがやがてザーザーと打ちつける雨となって、もう暗いこの時間は手を伸ばした先さえみえなくなってきた。
リュックの中には資料が入ってるしどうしても濡らしたくない。パーカーの中にリュックを隠すように抱いて走ってすぐ、これじゃあ寮までは無理だな、と諦めて店の軒下へと滑り込ませてもらう。
腕の中のリュックは大丈夫そうだけど、頭からつま先までぐっしょり濡れて、髪先からは雫もたれてくる。やばいな、通り雨だといいけど。
とりあえず雑に髪と体の雫を払い落とす。
雨の匂いは治らない。

なかなか降り止まない真っ暗な曇天を睨みつけていると、慣れ親しんだ声。
「綴?」
かけられた声の方へと目をむける。
「至さん!」
「どうしたのこんなとこで。傘は?」
「あ〜、傘、忘れちゃって」
「綴が?珍しいね。」
「…今日朝からついてなくて、」
「あ〜牡羊座、最下位だったもんね。おつ。」
「ラッキーアイテムちゃんときいとけばよかったっす。」
へらりと笑った顔に、至さんの手が触れた。
「うわ、つめた!綴いつからここいたの」
「え〜と、降り出したくらいから?」
「…30分はたってんじゃん。はよ帰ろ。ほら入って」
「でもそれじゃあ至さんも濡れるでしょ!」
「ばか。冷たくなった恋人ほっとけるわけないでしょ。それに、」
「?」
「綴の今日のラッキーアイテム、恋人だから」
「えっ!!?う、嘘でしょ!?」
「ほらはよはよ。嘘かどうかはみんなに聞いてもらってもいいけど。綴はきける?今日の牡羊座のラッキーアイテムなんだった?って」
「う、」
「さ、帰って風呂入ろ。俺も飲み会回避できなくてしんでたとこ綴に会えてラッキー。相合傘イベまで発生したし…ふふ。暗くても顔が赤いのってわかるんだ」
「うっさいっすよ…」





「千景さん、知ってました?同じ香水を10年同じところに使い続けると細胞がその匂いを覚えるそうですよ」
「へぇ。それは知らなかったな」
「ということは、10年後もしかしたら俺からも千景さんの匂いがするかもしれないっすね」
「…それはおもしろい。けど、香水をつけた覚えはないよ」
「えっそうなんですか!!わりといつも甘い匂いするんで、てっきり香水かと」
「甘い匂い?」
「十座が好きなキャンディ、お菓子やさんの匂いにちょっとスパイシーな香り…でもほんと控えめなんで、選んでるんだと思ってました。」
「…お菓子やね、」
「いつも近くにいるんで、俺の細胞もいつか千景さんの匂いを覚えるかもしれません」
「…そしたら…俺からも綴の匂いがるするかもしれないな」
「えっ俺香水つけてないですし!」
「綴はいつもいい匂いがする」
「そっ、んなことかいと思いますけど!」
「10年後、どちらの匂いになっているか楽しみだ」
「!そっすね!俺も楽しみ、んむ、」
「でも今は目の前の綴で楽しもうかな」





静まりかえった校舎に響く音色がある。
その音色の元へ迷いなく進んでいく影がひとつ。
教室を通り越し、音楽室をすぎる。階段をあがり、ほかの階には目もくれず、終わりまであがり続けるうちに音は止んでしまった。
ようやくひとつの扉に辿り着き、開くと強い夕日が目にささる。
くらくらとする眩しさに思わず目を細めた先には、

「日野」
「せんせ、今日は遅かったじゃん」
「そりゃあね、先生だから。いろいろあんの。今日はもうおわり?」
「今日新しいクレーン入ってるって情報きたから」
手の中で揺らされるスマフォに自然と眉間に皺がよるのが自分でもよくわかった。
ヴィオラをしまい込んだケースを持つとすぐに屋上を後にしようとする。
「せんせ、またあした」
赤く照らされた、憎たらしいほど弧を描く唇。それならこっちも。顎を掴んで思い切り噛み付いてやる。
「またあした」
ぺろりと舐めた唇は震えていた。




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