「いいなあ、」
僕の手を握りながら、ぽつりと、正に冬の名を持つ彼に相応しい雪のように消えそうな声で呟いた。
「メルくんの手は冷たいね」
「それのどこがいいんだい?」
「ふふ、本当に死んでるんだなあって」
まさかイヴェールまでどこぞの王子のような性癖の持ち主だったのかと、疑わしい目を向けたら彼もそれに気付いたらしく、可笑しそうに笑った。
「死んでることが“いい”わけじゃないよ」
あ、やっぱり死んでるのもいいや。と彼は直ぐ様訂正した。
僕は未だに発言の意図が読めず、黙って聞くことにした。イヴェールはイヴェールで話すことを躊躇っているのか――はたまたただ単に整理ができていないだけかは定かではなかったが――口を開こうとはしなかった。
ぎゅう、と握られている手に力が込められた気がした。そして少し間を空けて、またぽつりと呟いた。
「僕は生まれることも死ぬこともできなかったから。哀しいことにね」
最後の一言は自嘲の意を込めて言ったのだろう。
彼にとっては僕のような存在ですら羨ましいのか。もう天秤が生に傾くことは決してない、僕のような存在ですら。
どんなに僕が歩み寄ろうと、どんなに僕が理解しようとしても、彼が一体どんな気持ちで物語を探し続けているのか、“死んでしまった”僕にわかるはずもなかったのだ。
隣に顔を向け、イヴェールを見たら、彼の頬に涙が伝っているように見えた。が、すぐに顔を僕の肩口に埋めてしまった。
「愛されるってどんなことなんだろう。愛すってどんなことなんだろう」
掠れた声でそう言った彼の肩は微かに揺れていた。やはり泣いていたのかもしれないけれど、僕にはどうすることもできなかった。
でも、ねえイヴェール。
僕は君に笑っていて欲しいんだ。泣いて欲しくないんだ。
いっそ、この感情を愛と呼んでしまおうか。
(そうしたら、イヴェールを救うことはできるのだろうか)