テスト
2012/07/22 19:46

くのいち長屋への侵入自体は容易く、問題はいたる所に仕掛けられた侵入者対策の罠の悪質さである。
慎重に慎重を重ね、目的の北条の部屋の屋根裏へたどり着いた。
彼女はまだ寝ておらず、行灯の火を頼りに文を綴っている様子で、薄桃の寝巻に鮮やかな朱色の肩掛けをしていた。
それは夜目にも華やかなもので、彼女が僅かに身動きするたび綺羅星のごとき細かい輝きをいくつも反射した。

「誰だ?」

小さな声は油の燃える音をかき消して、私の背中に冷たい物を感じさせた。
忍び込みには自信があったが、それよりも北条の聴力、いや、忍者としての鼻が利くのか、気づかれたようだ。
筆を置いた北条は静かに立ち上がり、私の真下にやってきた。

「誰だ?」

正体までは見破られなんだ、しかし、ここまできてのこのこ引き下がるのは恰好がつかない。
腹をくくって天井板を外して下に降りた。
北条は降りてきた私をみて驚くでもなく、しかし呆れたような表情を浮かべていた。
彼女の肩掛けは向かい合ってまじまじと見れば絹のような滑らかな風合いをしていて、花模様に縫い込まれた銀糸が先の煌めきを放っていた。

「や、北条」
「何の用だ。言っておくが、お前の塹壕掘りには絶対付き合わないぞ」
「いや、そうじゃなくてさ……」

まさか来て早々と「抱かせろ」なんて言ってしまうほど私は不粋ではない。
ここで一体なんと言ったものかとしどろもどろする私に気づいてか気づかないでか、小さなため息の後に北条は座布団をすすめてきた。



追記

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